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会計・税務相談

2018年5月1日

Q.シンガポールの「移転価格税制」について会社が対応しなければならないことを教えてください。

シンガポールの移転価格税制について

移転価格税制は、関連者間の取引に関して、独立した第三者同士が取引する際の価格とされる「独立企業間価格」で取引が行われていない場合、それによって生じる所得の移転について税務当局が更正を行う制度です。

 

シンガポールでは、内国歳入庁(以下、IRAS)が発行する「移転価格指針」により、2015年から関連者間取引がある会社に対して移転価格文書の作成を義務づけています。さらに、2017年10月26日より、移転価格の文書化義務は、所得税法第34F条として法制化されました。

 

Q:すべての会社が移転価格文書を作成しなければならないのでしょうか。

A: 所得税法第34F条は、2019賦課年度(2018年終了会計年度)より、以下のいずれかに該当する納税者は、基準年度(賦課年度の前年に終了した会計年度)に行われた関連者間取引について移転価格文書を作成しなければならないと定めています。

 

• 基準年度の総収益が1,000万Sドルを超える
• 基準年度の前年に関して、移転価格文書を作成する義務があった

 

Q:すべての関連者間取引について文書化しなければならないのでしょうか。

以下の特定の関連者間取引については、移転価格文書の作成が免除されています。

 

• 同じ税率が適用されるシンガポール国内の関連者間取引
• シンガポール国内の関連者間の金銭貸借(貸手が貸付を事業としていない場合)
• 1,500万Sドルを超えない関連者間の金銭貸借でIRASが定める表示利率(Indicative Margin)を使用している取引
• 関連者間の所定の経常的な支援サービスについて、5%の利益が上乗せされている取引
• 関連者間取引が事前確認制度(APA)による税務当局の合意を得ている取引
• 各カテゴリー別に基準年度中のすべての関連者との取引合計額が右記の限度額を超えない取引

 

 

Q:どのような文書を作成しなければならないのでしょうか。

移転価格文書として作成しなければならない文書は、大きく分けて以下の3種類があります。

 

• シンガポール会社との関連者間取引にまつわるグループの事業概要に関する文書
• シンガポール会社と各関連者との取引の詳細に関する文書
• 国別報告書(シンガポールを究極の親会社とする国際企業の場合)

 

これらの文書は、グループ全体の取引に関わってくるものであり、また、シンガポールだけでなく取引の相手国の移転価格税制も考慮して作成する必要があるため、作成にあたっては国際税務に精通する大手会計事務所などに相談するのがよいでしょう。

 

Q:移転価格文書は、いつまでに作成しなければならないのでしょうか。

当該賦課年度の申告期限までに作成することとされています。移転価格文書は、税務申告と一緒に提出する必要はありませんが、IRASから要請があった場合には30日以内に提出することが義務づけられています。

 

Q:作成した移転価格文書は、どれぐらいの頻度で見直せばよいのでしょうか。

移転価格文書は、原則として毎年見直すこととされていますが、関連者間取引の種類や相手、独立企業間価格算定の諸条件などに変動がない場合には、前年もしくは前々年の基準年度を対象として作成した文書をそのまま使用してもよいとされており、その場合には3年に一度見直せばよいことになります。

取材協力=斯波澄子(Tricor Singapore Pte. Ltd.

本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.333(2018年5月1日発行)」に掲載されたものです。

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