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シンガポール星層解明

2017年8月25日

アマゾン進出で変わるシンガポールのネットスーパー業界

また日用品や食品をネットで購入する消費者は、商品価格だけではなく配送の即時性や定時性、すなわち注文してから短時間かつ指定した時間帯に配送可能か否かを比較検討して購入先を決めることが一般的であるが、アマゾンが提供する2時間以内の配送サービスは、ここで大きな差別化要素となる。他社が軒並み翌日以降の配送であるのに対し、アマゾンは2時間以内、さらに追加で注文あたり9.99Sドル(約800円)を支払うと1時間以内で配送をしている。注文してから1~2時間以内に商品を受け取ることが可能になると、例えば料理やパーティーの最中に追加で必要なものを注文できるなど、急な需要に対する使い勝手が格段に高まることになる。さらには、消費者の買い物から「計画する」という時には面倒なプロセスを取り除くことにもなり、オンデマンドの利便性が購買行動を変えていくことが期待される。

 

当面はアマゾンとレッドマートの2強時代
大手スーパーは実店舗の活用が不可欠

2011年に創業されたレッドマートは、中国最大のネット小売企業のアリババ・グループの傘下にあるシンガポールの最大手ラザダによって2016年に買収されていることから、アマゾンの進出によって「米中の代理戦争」と揶揄される状況にあるシンガポールのネットスーパー業界であるが、筆者はアマゾンとレッドマートの2強時代が当面の間は続くとみている。以下にその理由と、各社が強化すべき領域を簡潔に述べて本稿を締めくくりたい。

 

アマゾンは進出した各国で最先端の物流倉庫を稼働させ、日本などでも個人の運送事業者を囲い込んで独自の配送網を構築する方向にあることから、単なる小売企業ではなく物流企業であるとも言える。その強みを活かした1~2時間以内の配送サービスは、顧客層を拡大していく際に強力な訴求力を発揮していくとみる。課題は商品政策、すなわち品揃えの拡大とプライスマッチ(最安値保証)の強化である。レッドマートが販売する70,000超の商品数に比べてアマゾンは20,000超にとどまり、また今回調べたバスケット価格の中でもポカリスエットの2リットルを6本で14.85Sドルで提供するレッドマートに対してアマゾンは17.40Sドルと、商品政策が劣後している点は改善が求められる。

 

一方のレッドマートは、商品政策においては右に出るものはいない状況であるが、今後は配送の即時性で新たな標準を作り上げていくであろうアマゾンに対応して、自社の配送サービスレベルを如何に底上げしていくことができるかが2強の一角を占め続けていく上で問われることになる。

 

その他の4社については、抜本的な事業の強化を図らない限り、拡大するネットスーパー市場の恩恵にあずかることは一層困難になるとみる。オネストビーは、シンガポールに未進出である英小売大手テスコの商品を取り扱うなど品揃えの拡大を進めているが、コンシェルジェ料を含めた価格政策を見直す必要がある。実店舗を中心とする残りの3社は、店舗インフラを最大限に活用していくことが必須となってくる。例えばフェアプライスでは既に利用可能なサービスとなっているクリック・アンド・コレクトに関しては、コールド・ストレージにおいては同じ運営会社が展開するセブン-イレブンの店舗で商品を引き渡すサービス、また3社とも物流倉庫ではなく実店舗から周辺の顧客に短時間で配送するサービスなど、検討に値する打ち手が無いわけではない。

 

アマゾンの進出で過渡期に入ったシンガポールのネットスーパー業界であるが、各社が生き残りをかけて如何に既存のサービスを改善していくのか、今後の動向に注目していきたい。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.325(2017年9月1日発行)」に掲載されたものです。

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