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座談会

2017年8月25日

シンガポールの日系飲食店、成功のカギ!

AsiaX:本日はお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます。今回の座談会では、皆さんがシンガポールで事業を展開される中で感じられていることや気付き、日系飲食店のあり方などについてお話をお聞きしたいと思います。まずは、シンガポール進出までの背景について教えてください。

 

佐藤:創業者の竹田(敬介)はもともと海外志向が強く、当初アメリカに進出する計画があったのですが、海外進出を考えていた2010年頃、アメリカ経済は停滞していました。ちょうどその頃、シンガポールで日本食の集合施設ができるので入居しないかという話が来たのがきっかけです。

 

岩崎:佐藤さんの所と同じ日本食の集合施設の話がきて、当社の社長、副社長が現地入りしてリサーチを行い、シンガポール進出に手応えを感じ、出店が決まりました。

 

山下:福岡にある不動産会社が経営する日本料理店の駐在員として来星し、約4年10ヵ月働きました。その後、日本に戻る選択肢もあったのですが、独立志向が強く、30歳を迎えるその頃に独立することを決意しました。当時は失うものもなく、できる限り働いて、ここでお世話になった方々に恩返しをしたいと思っていましたし、今でもその思いは変わりません。

 

植村:私個人は、15年前にサントリー子会社からシンガポールに出向し、東南アジア進出に向けて店舗の内装やメニューの構成、企画などを手掛けていました。東京やシンガポール、その他の国を行ったり来たりしながら10年間働いた後独立し、飲食業のコンサルティング会社を設立しました。AP Companyはそのときのクライアントで、1号店をシンガポールに出すときにコンセプトづくりを手伝ったことがあります。現在は、AP Companyの社外取締役として働いています。

 

AsiaX:シンガポールで事業を展開するにあたってのポイントについてお聞きしたいと思います。人種構成などが日本と大きく異なるシンガポールで、日本のやり方をそのまま持ち込んだのではうまくいかないことも多いのではないでしょうか。事業の進め方など、工夫している点についてお聞かせ下さい。

 

佐藤:進出当時、シンガポールにはプロウンミーがあるのだから、きっと海老そばも気に入ってもらえるだろうと、日本食の集合施設の担当者から言われていましたし、われわれが展開していた海老そばが日本でブームだったので、同じく看板商品として売り出せば問題ないだろうと考えていました。

 

しかし実際には、プロウンミーは安価なうえにホーカーで食べることができることもあり、なかなかリピーターが増えませんでした。一方で、現在展開しているとんこつラーメンは当時からシンガポール人の反応も良く、味に間違いはないと思いました。そんな経験もあり、今はもう日本での業態には固執していません。日系飲食店がシンガポールに進出するにあたり、ローカルの料理と似たものがあってはいけないと強く思いました。

 

味の部分では、日本人が満足するものでないと駄目だと思いますが、それだけではシンガポール人には響かないのではないでしょうか。シンガポール人にもしっかり評価されるものを提案していくことが必要であり、そのための取り組みを続けることで店の価値も上がっていくのだと考えています。本物感があり、シンガポール人にも評価される店づくりを目指していくことが大事です。

 

植村:当社も佐藤さんと同様の考え方です。1号店を出店した時も今も一貫して考えは変わっておらず、日本から既存のブランドを持ってくる気持ちはありません。自分たちが納得できるものというクオリティを確保しつつ、シンガポール人に喜んでもらえるメニュー作りを目指しています。

 

例えばシンガポール人は料理の見た目を重視する傾向にあり、価格が適正かどうかについてもシビアに見ています。また、見た目と価格から料理への期待値を高めることができれば、実際に食べたときに満足度も上乗せされるものだと思っており、そのバランスには常に気をつけています。

 

岩崎:富寿しでも地元の人達の好みに合わせて事業を広げていますが、最初から一気にシフトしたわけではなく、徐々にシンガポール人の嗜好に近づけていっている、といったところでしょうか。カッページ店以外では、客の9割はシンガポール人で、日本人は1割ほどです。シンガポール人にとって、それだけ日本食が当たり前の状況になってきているのはありがたいですね。

 

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AsiaX:日本へ旅行に行くシンガポール人が増える中、日本食に関する知識も深まってきているという話もよく耳にしますが、当地での日本食に対するニーズは、どのように変わってきているのでしょうか。

 

山下:お客様から、「今度日本へ行くけれど、何を食べればいいか」といった質問を受けることが多くなりました。「築地だけでなく、日本にあるミシュラン星付きレストランを周りたい」とか「あなたが実際によく行く店はどこですか」といった感じです。

 

これまでシンガポール人がよく訪れる日本の都市といえば、東京、京都、大阪、北海道あたりが定番でしたが、次第に地方にも注目が集まるようになったのが変化のひとつだと思います。こうした中で、ニーズが多様化するとともに本物志向も高まっていると感じます。最近では味そのものだけでなく、見た目や香り、さらに後味まで気にするシンガポール人が増えました。例えば「生柚子のすりおろしと冷凍は違う」といった風に、日本食に関する理解が進んできているという感覚はあります。

 

シンガポールで日本料理を出す側としても、よりクオリティの高いものを追求する姿勢が重要になっています。今後は当社では、新しい業態で出店することも視野に入れながら商品化していきたいですね。

 

植村:確かにいろいろなものを食べる機会が増えたことで、美味しいかそうでないか、その人なりの基準ができてきていますよね。

 

AsiaX:シンガポールで日本食店が増える一方で、競争も激しくなっているのではないでしょうか。価格帯の設定についてはどのようにお考えでしょうか。

 

岩崎:利益を確保できるのならいいのですが、価格競争が加熱しすぎると撤退の増加にもつながり、最後はみんな共倒れになってしまうのではないかという危惧はあります。商売なので難しいところではありますが、価格と利益のバランスを考えることは欠かせません。

 

価格を抑えたとしても、あまりメニュー数を増やしすぎると埋もれてしまいますし。メニューの数についても、バランスを考えて決めていくことが大事なのではないでしょうか。

 

佐藤:値段については、ラーメンの場合、シンガポールでの価格帯は11~15ドルほどと大体同じです。そのレンジの中で値ごろ感を意識しつつ、クオリティにも満足してもらえるように努めています。

 

山下:当社でも、値段以上の満足度をいかに出せるか、徹底して取り組んでいます。私がスタッフに伝えているのは、コストは気にするなということ。ゲストが笑顔になれるように、そしてまた来店してくれるように、目の前の方を幸せにしていこうと常に考えています。

 

植村:価格設定においては、料理ごとのメリハリが大事だと思います。全てのメニューを安くすることはできません。店全体を見たとき、価格設定が適正なものとお得感があるものとで、メニューのバランスが取れているところはうまいと思いますね。安いメニューでお得感を出しながら、他のものでちゃんと利益を出せるような、こなれたメニュー構成を最近よく見かけるようになりました。その点については私も勉強していきたいです。

 

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