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芸能、芸術インタビュー

2017年1月1日

【雅楽師】東儀秀樹さん

海外で「懐かしい」と言われる雅楽、国を超えた根源的な音楽の形

 2016年11月30日、日本とシンガポールの音楽のコラボレーションコンサート「SG-JP Music Mix 2016」が、日本・シンガポール外交関係樹立50周年(SJ50)を記念して、ヴィクトリアコンサートホールで開催された。シンガポールから、ディック・リーやシャビル、オリビア・オンといった著名アーティストが、また日本からは雅楽師の東儀秀樹さんと、このコンサートのプロデューサーで、日星音楽親善大使でもあるシンガーソングライターのSachiyoさんが出演した。シンガポールでの演奏は今回が初めてという東儀さんに、国境を超えた雅楽の魅力や音楽への考え方などについて伺った。

 

Photo by Alfred Phang

 

今回のイベントに参加するまでの経緯について教えてください。

 SG-JP Music Mix 2016のプロデューサーを務めるSachiyoさんが、音楽を含めた僕の考え方に共感してくれたことがきっかけのようです。僕はこれまで、日本の文化を背負うことの責任や誇りについて、メディアでよく発言してきました。また幼い頃、海外に住んでいた経験から、日本の文化を大切にすることの重要性も理解しています。海外の方が持つ日本への誤解をなくしたいと思うこともあるし、日本の文化を正しく知ってもらい、その可能性にわくわくしてほしいと常々感じています。

 

 それと同時に、雅楽について外国人や今の日本人にも聞きやすいテイストで伝えていきたいと思っています。雅楽というと堅苦しいイメージを持つ方もいるかもしれませんが、僕はもっと現代風のポップな演奏もするし、他ジャンルの音楽ともさまざまなコラボレーションをしています。特に今回のような国際的な交流イベントでは、海外のミュージシャンの方とのコラボレーションにはとても意義があると思っており、そうしたことに抵抗がないと思ってもらえたことも、僕に声がかかった理由なのかもしれませんね。

 

国境を超えた雅楽の魅力や海外での受け止められ方についてどうお考えですか。

 雅楽はそれだけでも音楽として成立しますが、工夫することでポップな音楽にも簡単に溶け込めます。古いものと新しいものを合わせるのは難しいというのは、現代の人の先入観でしかない。音楽とはもっと自由なもので、古いものでもそのテイストを生かしながら、新しいものに溶け込ませることはできるのです。海外でも、そういったことに気づいて興味を持ってくれる人も多いのかもしれません。

 

 またアジアだけでなく、米国や欧州でも「懐かしい感じがする」と言われることが多く、雅楽には国を超えた根源的な音楽の形があると感じています。雅楽の楽器をジャズっぽく吹いたとしても、ちょっとした吹き方のニュアンスが楽器から太古の空気感のようなものを引き出してくれます。そういったところが懐かしいと言われる理由なのかもしれません。

 

 雅楽は、日本で1000年以上前から全く変わらないものを途絶えさせることなく続けてきており、それが海外で驚異的と思われることが多いとも感じます。どんな国でも、1000年以上続いている音楽文化はなかなかありません。例えば米国には、ネイティブインディアンのフルートといった古い楽器がありますが、当時の吹き方は誰も知らず、楽曲も残っていません。こういったケースは多くの国で見られます。
 

Photo by Alfred Phang

 

シンガポールでもアートやカルチャーへの関心が高まりを見せています。こうした状況をどのようにご覧になっていますか。

 シンガポールは多民族国家で、異なる考え方の人が集まっています。こうした中、さまざまなものを受け入れ、尊重することが求められる社会なのではないかと感じています。多様な価値観を認め合うことができるという意味で、アートの発展性もあると思います。

 

ご自身の音楽性のルーツについてお聞かせ下さい。

 タイやメキシコに住んでいたこともあり、これらの国の音楽から影響を受けたのかとよく聞かれますが、あまりそういう実感はありません。実際に僕が海外で触れていた音楽はビートルズなどで、中学生・高校生の頃はロックに夢中になり、バンドでギターを弾いていました。また父はベートーベンが好きでクラシックをよく聴いており、母はミュージカルや映画音楽を好み、よく童謡を歌って聞かせてくれました。多様な音楽に接する環境が、自分の感性や音楽スタイルに大きく影響しています。

 

 さまざまな音楽を知っていたことで、雅楽の楽器とも自由に向き合うことができたと思います。また、楽しい音楽とは何かを知っていたからこそ、雅楽の楽器は古典の儀式のためだけのものではないと思うことができました。最初に篳篥(ひちりき:主に主旋律を担当する縦笛)を手にしたとき、この音でこんな奏法がある楽器なら、ビートルズを吹いたら魅力的だろうとか、自然に閃くことができたのです。

 

2016年11月には、アルバム『Hichiriki Christmas(ヒチリキ・クリスマス)』をリリースされました。作品の魅力についてお聞かせ下さい。

 篳篥というと、やはり堅苦しいイメージを持たれることが多いのですが、雅楽の楽器だからクリスマスの音楽には向いていないということはありません。篳篥で『ラストクリスマス』や『ホワイトクリスマス』、『サンタが街にやってくる』といった曲を演奏すると果たしてどうなるのか、その楽しさを感じてほしいと思います。

 

 例えば、篳篥で演奏したこれらの曲が街で流れたとき「これは何の楽器の音色だろう」とか、「サックスっぽいけれど違う、トランペットかな」とか、聞く人が興味を持ってくれたら面白いなと思います。それが篳篥の音色だと知ったとき「雅楽の楽器はこんな曲も演奏できるのか」と思ってもらえるかもしれません。さらには、日本の文化をもっとよく知ろうと思うきっかけにもなるのではないかと期待しています。

 

今後の活動の方向性についてはいかがでしょうか。

 これからも幅広いジャンルでいろんなことに取り組んでいきたいと思いますが、僕は昔から、あまり具体的な目標は定めないタイプです。例えば、外国で演奏したいと思っていても、ご縁がなければなかなか実現しません。一方でそういったご縁があったとき、いつでも応じられるようにしています。目的意識を持たないことで、目の前に現れるものに対して、すぐに顔を向けられる余裕が生まれます。

 

 目標を固めてしまうと、何かご縁があっても、それを排除して自分のゴールに向かおうとしてしまいがちです。ただそれを達成することが、本当に自分にとって最良の選択なのかは、そこに辿り着かないと分からないものですし、そこにしかゴールがないと決めつけてしまうのはもったいないことだと思います。しっかり活動できていれば僕は幸せです。そうした中で、もう一歩踏み出したいと思えるような出会いは必ずあると思います。

 


東儀 秀樹(とうぎ ひでき)
 1959年10月12日生まれ。東京都出身。父の仕事の都合で幼少期をタイやメキシコで過ごす。高校卒業後、宮内庁楽部に入り篳篥や琵琶などを担当。1996年にデビューアルバム「東儀秀樹」をリリースした。音楽にとどまらず、NHK大河ドラマ「篤姫」で孝明天皇役を務めるなど俳優としても活動。また2003年にモスクワ公演を行うなど、海外でも精力的に音楽活動を展開している。2016年には、台湾でのオーディションで選抜した二胡、琵琶、笛子の若手奏者6人と「東儀秀樹 with RYU」を結成、ユニット公演を成功させた。

 

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応募締め切り : 2017年1月31日(火)
※応募はお1人様につき1通のみとなります。複数応募の場合は無効と致します。お送りいただいた個人情報は、抽選および色紙の発送にのみ使用致します。応募をもってご了承いただいたものと致します。当選の発表は、Eメールでの通知をもって代えさせていただきます。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.316(2017年1月1日発行)」に掲載されたものです。(取材:佐伯 英良)

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