2016年8月1日
Q.シンガポールにおいても、就業規則を作成し、雇用契約の一部とすることは可能でしょうか?
シンガポールにおける就業規則とその変更手続
A:可能です。就業規則とは、労働条件や職場のルールを取り纏めた規則集のことをいいます。シンガポールでは、「Employment Handbook」や「Staff Handbook」等と呼ばれています。就業規則を作成し、従業員との雇用契約の締結前または締結時にその内容を通知した場合、その就業規則を雇用契約の一部とすることができます。就業規則は、使用者および従業員の権利義務を可視化できるとともに、雇用法の法改正等への対応も就業規則の改訂により一元的に行うことができるため、シンガポールにおいても積極的に活用されています。
目次
Q:シンガポールでは、使用者に対して就業規則の作成が義務付けられる場合はありますか?
A:ありません。日本では常時10名以上の従業員を使用する使用者は、就業規則を制定し、労働基準監督署長に届け出る義務があります。しかしシンガポールでは、雇用する従業員の人数にかかわらず、就業規則の作成を使用者に義務付ける法律はありません。
Q:シンガポールでは、就業規則にどのような事項を記載することが求められるのでしょうか?
A:法律上求められる記載事項は特にありません。日本では、労働基準法が就業規則に記載しなければならない事項(必要的記載事項)や、該当する制度がある場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)を定めています。一方シンガポールでは、このような法定記載事項はありません。実務的には日本と同様、賃金労働時間、服務規律、解雇、有給、および福利厚生等の労働条件に関する事項を定める例が多いようです。また、社内秩序に関するルールや会社のポリシーといった事項を定める例もよく見られます。
Q:シンガポールでは、就業規則を変更する場合、どのような手続が必要でしょうか?
A:就業規則において、使用者側の裁量により就業規則を変更できる旨が明確に定められている場合、使用者は従業員の同意を得ることなく就業規則を一方的に変更することが可能です。
また日本では、就業規則の変更を行う場合、労働組合または労働者の過半数の代表者の意見を聴取することや、変更後の就業規則を労働基準監督署長に届け出ることが必要ですが、シンガポールではこうした手続は必要ありません。
他方、就業規則において、使用者側の裁量により就業規則を変更できる旨の定めがない場合、使用者は当該就業規則が適用されている従業員の同意を得なければなりません。仮に同意を得ずに就業規則の変更を行った場合、その変更は無効となります。
Q:使用者側が裁量により就業規則を変更する権利を有している場合、従業員に対する配慮は全く必要ないのでしょうか?
A:使用者において就業規則を一方的に変更できる場合であっても、従業員に対する一定の配慮は必要です。過去の裁判例では、使用者側の裁量による一方的な就業規則の変更は、使用者と従業員との相互の信頼関係を破壊しないような合理的な手段により行わなければならないと判断しています。そのため従業員への配慮として、就業規則の変更日や変更内容を従業員に事前通知し、変更理由を説明することも一案といえるでしょう。
取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 野原 俊介
このコーナーでは、読者の皆様のお悩み・ご相談を、会計・税制、法律、医学、企業ITシステムのプロフェッショナルが無料にてお答えします。
注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.307(2016年8月1日発行)」に掲載されたものです。