シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP[最終回]シンガポールの雇用法 ~従業員には酷すぎる?~

シンガポール司法八方

2016年5月2日

[最終回]シンガポールの雇用法 ~従業員には酷すぎる?~

■解雇に理由は不要
雇用法上、会社は、雇用契約や就業規則などで別途合意・規定している場合を除いて、原則として、従業員に対して、その雇用期間に応じて1日から4週間前に事前通知をした上で、もしくは、事前通知期間分の賃金を支払うことによって、雇用契約を解消することができます。ここでも日本と大きく異なるのは、日本では解雇には客観的・合理的な理由(かなり厳格)が必要であるのに対して、シンガポールでは解雇に理由は不要という点で、実際に従業員を解雇する場面でも理由を示さないことが一般的です。

 

■産前産後休暇と育児休暇が短い
日本では、出産する女性が、産前数ヵ月前から産後1年間程度の休暇を取ることが一般的ですが、シンガポールでは、児童育成共同救済法
(Children Development Co-Savings Act)上、原則として、産前産後休暇は合計16週間、育児休暇は年間6日間と短く、その代わり休暇中の給料は国が負担します。実際にも、出産の直前(ときには前日!)まで仕事をし、産後4ヵ月程度で職場復帰するケースが多く見受けられる点が日本とは大きく異なります。

 

■最低賃金の制度がない
日本と異なり、シンガポールでは最低賃金の制度がなく、賃金は会社と従業員間の雇用契約で自由に決めることが可能です。

 

こうして両国を比較してみると、シンガポールの雇用法制は、会社による従業員の搾取を助長する制度だと感じる方も多いでしょう。ですが、そもそもシンガポールがこのような制度設計にした主な目的は、会社側に都合のよい制度にすることで、シンガポール経済の発展に貢献する外資系企業を誘致する点にあります。実際、世界中から外資系企業がシンガポールに進出して新たな雇用が作出され(国内にある会社の24%程度は100%外資の企業という調査結果もありました)、結果として、2015年における失業率はわずか1.9%(日本は3.4%)と労働市場は健全です。その上、シンガポールは転職社会であるため、従業員からすれば解雇のプレッシャーは日本と比べて少なく、より良い条件の会社を求めて転職を重ね、会社側としても優秀な人材を中途採用したい傾向が感じられます。こういった点に着目してみると、シンガポールの雇用法制もシンガポール社会においてはあながち従業員にとって酷なものではないのかもしれません。

Profile-photo-web高橋 宏行(たかはし・ひろゆき)
東南アジアにおける日系企業の活躍に貢献したいとの思いから、2015年8月に渡星。ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所に所属し、日本法弁護士と して培ったビジネス法務の経験や米国ロースクールへの留学経験、東南アジアでのネットワーク等を活用しながら、東南アジア各国に進出する日系企業の支援に 日々奮闘している。

協力:ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所
http://www.kcpartnership.com/

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.301(2016年5月2日発行)」に掲載されたものです。

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