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シンガポール予算案

2016年4月18日

2016年度シンガポール政府予算案のポイント

2016年3月24日にシンガポール政府の2016年度予算演説が財務大臣のヘン・スイキャット氏により行われました。その中で発表された税制改正のうちの主なものについて、以下に取り上げます。

法人税の税額控除
昨年度の予算案において、2016~2017賦課年度の2賦課年度について30%の税額控除(限度額2万Sドル)が発表されましたが、昨今の不透明な景気の動向を受け、今年度予算案では、この税額控除の比率を30%から50%に引き上げることが発表されました。ただし、限度額は2万Sドルのまま据え置かれます。従って、課税所得(部分的免税所得控除前)が約39万Sドルを超える場合、税額控除の金額は一律2万Sドルとなります。

 

生産性・革新控除(PIC)
PICは、2018賦課年度まで6分野の適格活動に関する支出について、分野毎に1賦課年度につき40万Sドルの支出を限度として400%の所得控除を認めるという制度ですが、控除に足りる十分な課税所得がない企業に対しては、所得控除の代わりに現金の還付を認めています。この現金還付制度に関して、2016年7月31日までに発生した支出については、6分野合計の支出のうち1賦課年度につき10万Sドルの支出を限度として60%(最高6万Sドル)の還付が認められていますが、2016年8月1日以後に発生した支出については、還付率が40%に引き下げられます。

 

中小企業運転資金融資制度
中小企業の運転資金や設備投資に必要な資金について、30万Sドルを限度とする融資制度が規格・生産性・革新庁(SPRING)により導入されます。利率は、参加金融機関による査定によって決定されます。この制度では、参加金融機関による融資基準が緩和されるよう、政府が信用リスクの50%を負担します。
この融資制度を利用するには、下記の要件を満たさなければなりません。
•シンガポールで登記された会社であること
•株式の30%以上をシンガポール国籍または永住権者が保有していること
•グループ全体の年間売上高が1億Sドル以下、もしくはグループ全体の従業員
数が200名以下であること

 

自動化のための設備投資の支援
2018賦課年度をもって期限を迎えるPICに代わり、引き続き生産性の向上を推し進めるための支援策として、自動化のための設備投資に重点をおいた4つの新しい政策が導入されます。

1) SPRINGによる能力開発補助金(CDG)
SPRINGは、国内中小企業が事業を発展させるための様々な活動に対して補助金を支給していますが、この補助金を自動化設備の新規導入または設備増強にも適用し、認可された自動化プロジェクトについて、支出額の50%かつ100万Sドルを限度とする補助金を支給します。

2) 投資控除(IA)
自動化のための設備投資に関して認可された支出について、キャピタル・アローワンス(税務上の減価償却)とは別に1,000万Sドルを限度とする100%の投資控除(補助金控除後の金額)が適用されます。

3) 国内企業融資制度(LEFS)による設備投資資金の融資
認可された自動化プロジェクトに関して金融機関からの融資が容易に受けられるように、SPRINGが管轄するLEFSについて、政府による信用リスク負担を50%から70%に増やします。また、LEFSによる設備投資資金融資制度を中小企業の以外の企業にも適用し、政府がその信用リスクの50%を負担します。

4) 海外市場開拓支援
自動化プロジェクトにより生産性を向上させ、海外市場への販売を拡大しようとする企業に対して、シンガポール国際企業庁(IE Singapore)がSPRINGと連携して、国際企業パートナーシップ制度および市場参入支援補助金制度により、海外進出の後押しをします。

なお、上記の支援策のうちSPRINGが管轄するCDGとLEFSについては、前述の中小企業運転資金融資制度で触れたのと同じ要件を満たすことが前提とされています。

 

国際化制度による200%の所得控除(DTD)
DTDは、シンガポールの会社による海外進出を後押しするため、所定の費用について200%の所得控除を認めています。この制度は、原則として管轄省庁であるIE Singaporeへの事前申請が義務づけられていますが、下記の費用については1賦課年度につき10万Sドルを限度として事前申請を行わずに課税所得から控除することができます。
a) 海外での新規事業開発のための出張・視察団参加旅費
b) 海外での投資調査のための出張・視察団参加旅費
c) 海外の貿易展示会への参加費要
d) 国内の認可貿易展示会への参加費用
この制度は、2016年3月31日までの期限が付されていましたが、2020年3月31日まで4年間延長されることになりました。

 

M&A控除
M&A控除は、適格M&Aについて買収価額の25%の所得控除を認める制度ですが、その対象となる買収価額の限度額が現行の1賦課年度につき2,000万Sドル(500万Sドルの所得控除)から4,000万Sドル(1,000万Sドルの所得控除)に引き上げられます。同様に、M&Aにかかる印紙税免除についても、買収価額の限度額が現行の1賦課年度につき2,000万Sドルから4,000万Sドルに引き上げられます。改正は、2016年4月1日から2020年3月31日までに締結されたM&Aに適用されます。

 

株式の売却益
2012年度予算案の税制改正により、会社が保有する株式を売却して利益を得た場合、売却時から遡って24ヵ月間にわたり出資先の会社の株式を常時20%以上保有していれば、事業所得ではなくキャピタル・ゲインと見なして非課税扱いとされています。この措置は、2017年5月31日までの期限が付されていましたが、2022年5月31日まで5年間延長されることになりました。

 

金融・財務センター(FTC)
グループ会社の資金運用を一括して管理するFTCに対する優遇制度は、2016年3月31日までの期限が付されていましたが、2021年3月31日まで延長され、同時にFTC制度の国際競争力を高めるため、以下の改正が為されることになりました。
a) 優遇税率を現行の10%から8%に引き下げる一方、制度の適用要件の基準を引き上げる
b) 不正防止策を講じた上で、適格グループ会社から間接的に得た資金についてもFTC制度の対象に含める
c) 非居住法人の適格グループ会社からFTCへの預金に対する利息の支払いについて、源泉徴収税を免除する

 

土地有効利用控除(LIA)
LIAは、土地面積当たりの建物の延床面積を増やし土地の利用効率を高める建物の建築や増改築について、税務上の減価償却を認める制度です。現行では、建物の延床面積の80%以上をLIAの適格活動を行う1社が使用していることが要件とされていましたが、2016年3月25日以後に提出された申請については、関連会社である場合に限りLIAの適格活動を行う複数の会社による使用が建物の延床面積の80%以上となる場合も、要件を満たしていると見なされることになりました。

 

知的財産
現行では、知的財産の取得について5年間の定額償却が認められていますが、知的財産の有効期間などに応じて5年、10年、15年の中から償却年数を選択できるようになりました。この改正は、2017~2020賦課年度の申告対象となる会計年度に取得された知的財産に適用されます。

 

事業・認可慈善団体(IPC)パートナーシップ制度
慈善団体における慢性的な人手不足を解消し、同時に企業による社会貢献の意識を高めることを目的として、企業がIPCに従業員をボランティアとして派遣(出向も含む)した場合、1賦課年度につき25万Sドルを限度としてその人件費(事業の出資者の人件費を除く)および付随費用の150%について追加の所得控除を認める制度が2016年7月1日から2018年12月31日まで試験的に導入されます。

 

個人所得税の税率
昨年度の予算案で発表された通り、2017賦課年度(2016年の所得)から居住者の個人所得税の累進税率が変更され、最高税率が22%となります。

 

個人所得控除
CPF控除や扶養控除を含めた個人所得控除について、2018賦課年度(2017年の所得)から1賦課年度につき合計8万Sドルが限度とされることになりました。この改正により、シンガポール国籍の子供を扶養し、所得が高い女性が主として影響を受けることになります。

 

外国人従業員の一時帰省旅費
外国人従業員およびその家族が本国に帰省する費用を雇用主が負担した場合、現行では本人および配偶者については年1回、子供については年2回まで実費の20%のみが課税所得とされていましたが、2018賦課年度(2017年の所得)からは、全額が課税所得とされることになりました。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.300(2016年4月18日発行)」に掲載されたものです。寄稿:Tricor Singapore Pte. Ltd. 斯波 澄子

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