シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP[第5回]シンガポールの弁護士 ~急増する背景とその将来~

シンガポール司法八方

2016年4月4日

[第5回]シンガポールの弁護士 ~急増する背景とその将来~

4.弁護士急増による就職問題
このように弁護士の需要が増加しているのであれば、シンガポールの弁護士の将来は順風満帆とも思われますが、必ずしもそうとは言えません。最近では、シンガポール経済が下降していることから、企業法務や国際取引における弁護士の需要が期待していたほど高まらず、弁護士の供給過多が既に生じているとも指摘されています。また、シンガポールでは、弁護士として就業する前に法律事務所において6ヵ月間の研修を積まなければなりません。この研修は、研修生が弁護士実務を学ぶ機会であるとともに、法律事務所による採用テストとしての側面を兼ねています。しかしながら、各法律事務所が採用できる研修生の数には限界があるため、近年、研修先を確保できない者が増えており、その数は、約650名の研修希望者のうち約150名にもおよぶと言われています(2014年度)。日本でも弁護士の急増に伴い、法律事務所への就職活動に悩む弁護士が増えていると言われますが、シンガポールでも同様の問題が生じているようです。

 

5.国際競争の波
国内の弁護士が急増する一方で、外国人弁護士も増えています。シンガポールに進出している海外の法律事務所は100を超え、外国人弁護士数は約1,200人と言われており、近年、こうした外国人弁護士の活躍の場が増えてきています。紛争解決分野においては、昨今、注目を浴びているシンガポール国際仲裁センター(SIAC)、シンガポール国際商事裁判所(SICC)、シンガポール国際調停センター(SIMC)といった紛争解決機関においては外国人弁護士も代理人となることが可能です。また、2011年に創設されたForeign Practitioner Examinations(FPE)という試験に合格すれば、外国人弁護士であっても、シンガポール法業務の一部(訴訟や一定の国内法領域を除く)を行うことが可能となりました。こうした規制緩和により、世界各国の弁護士が活躍する機会が、今後ますます増えていくかもしれません。
シンガポールの弁護士は、外国人弁護士と競合する機会も増えるなど、国際競争の波に晒されることが予想されますが、他方、こうした環境が弁護士全体の質の向上やサービスの多様化などを進め、シンガポールの弁護士業界の発展に寄与するのではないかと期待されます。

野原 俊介(のはら・しゅんすけ)
2006年弁護士登録。光和総合法律事務所に入所後、主に M&A、一般企業法務、紛争解決法務等に従事。2015年5月に米国シカゴのノースウェスタン大学ロースクールの法学修士課程を卒業。2015年 8月に渡星し、ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所において、東南アジア各国に進出する日系企業の法的支援に従事している。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.299(2016年4月4日発行)」に掲載されたものです。

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