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来星記念インタビュー

2013年12月4日

「人に笑顔を、世界に平和を」世界一の庭師が造るガーデンから

ランドスケープアーティスト石原和幸

スクリーンショット 2015-06-30 12.23.31パイナップルの妖精アナナスとストロベリーの妖精ベリーの夢の世界、「クリスマス・シュガーマウンテン」がガーデンズ・バイ・ザ・ベイ(GBB)のフラワードームに出現。来年1月5日までのホリデーシーズンの間、訪れる人の目を楽しませてくれる。そのカラフルで独創的なデザインの作り手は、国際的な展覧会等で数々の受賞歴を誇り、その名を世界に知られる石原和幸氏だ。世界各地で精力的に活躍する石原氏に話を聞いた。

――GBBにご自身がデザインした作品「クリスマス・シュガーマウンテン」を提供することになったきっかけを教えてください。

2008年の「シンガポール・ガーデン・フェスティバル」に出展して最優秀賞とベストガーデン賞を受賞した後、GIC(シンガポール政府投資公社)所有の日本国内のホテルやリゾートの緑化リニューアルのプロジェクトに関わるなど、シンガポールとは以前よりご縁がありました。今回、GBBのCEOであるDr. Kiat W. Tanより、世界的な場で受賞歴のあるガーデン・デザイナーにデザインを委託したいと言われ、お引き受けしました。大変うれしく、身の引き締まる思いでした。

 

――「クリスマス・シュガーマウンテン」とはどんな庭なのでしょうか。

同じ地球上で生まれた1人として、僕は人種や国を超えて誰もが楽しめるパラダイスのような世界を体現したかった。それが「クリスマス・シュガーマウンテン」というパラダイス、つまり今回の庭なんです。
具体的には、GBBのフラワードーム内の大きな花壇である210平方メートルの半円スペースに、果物や野菜をいっぱい使った庭をつくりました。その植え方や使い方を是非見て頂きたい。イチゴ、パイナップル、カボチャ、スイカ、トマトやナスなど、花にも負けないカラフルで美しいディスプレイになりました。

 

――そのデザインに込めた石原さんの思いを教えてください。

いろんな国で庭を作る中、世界各地で貧富の格差が拡大し、あちらこちらで争いがたえない世の中になっていると実感しています。インターネットによる情報化社会、情報技術の進歩が目覚ましい一方で、競争社会の中で人の心の優しさが少しずつなくなっているんじゃないかなと。僕は、全ての争いは貧困から来ていると思います。食べる物さえあれば皆が仲良くなったり、分かち合えたり、笑顔になれるはずという発想から、この「クリスマス・シュガーマウンテン」が生まれました。この庭にはストーリーがあって、主人公たちが野菜を作る畑を耕して食べ物を作り、その畑の恵みである食べ物を皆に分け与える。僕は食べ物には、社会格差を埋める力があると信じています。

 

――今後のシンガポールでの活動について、合弁会社設立も決まったと伺っています。

国内では壁面緑化のプロジェクト、ジョホールバルでも予定しています。また、デザインだけでなく、メンテナンスの事業に力を入れたい。シンガポールでは2008年から緑化に相当な予算をかけて、結果緑は増えたものの、メンテナンスがいきわたっていないので。ガーデンというより、緑地帯が増えたというか。日本では庭師という職人がいて、その技術によって相応しいメンテナンスをするのですが、こちらでは、その技術がないために、カッティングにしてもバッとまっすぐに切るだけとか、造形としてのメンテナンスには程遠い状態。そこにビジネスとして可能性があると思います。造園会社のスタッフを日本に呼んで研修するなど、教育の部分を請け負って技術の向上を図ることなどを考えています。

 

――シンガポールで取り組んでみたい庭について教えてください。

シンガポールは四季がないと思われがちですが、そうではない。雨季と乾季だけでなく、雨季の始まり、雨季の終わり、そこに花が咲いたり散ったり、葉の生え変わる時があったり。シンガポールの四季を明確にするためにも、この時期にこの花が咲くなど記した花カレンダーみたいなものがあってもいい。多品種の植物を同時に植えることで、この花にはこの鳥が飛んでくる、蝶も飛んでくるなど、自然や生き物が共生しあって強くなる、日本の「里山」みたいなものをシンガポールにつくりたい。そういった植栽プランや街づくりを考えればシンガポールならではのオリジナルの風景ができるのではないかと。

 

――それはどうしたら実現できるのでしょうか。

まず「突き抜けた」アイコンとなる作品をひとつ作ること。例えば、緑が突き抜けた建物があれば、それを皆が真似しようとする。そうなれば、きれいなレストランやホテルもどんどんできて、人が通う。ビルが緑化されて美しければ、優良なテナントが入る。僕は、緑化はコストではなく、街づくり、ひいては国力を培う武器になると思います。

 

――今年100周年を迎えた英国王立園芸協会(RHS)主催の「チェルシー・フラワーショー」で金メダルとベストガーデン賞を受賞されました。

2004年から7回出展して金メダルを4回とりました。今年はエリザベス女王陛下の誕生日祝賀会に招待されるまでになり、光栄でした。「里山」のコンセプトで4回も名誉ある賞を受賞できたことは、僕のスタイルでいいんだという自信につながりました。このコンセプトをもっと世界に広げていきたいです。
イギリスでは従来、花をインパクトとして置く左右対称の庭が一般的ですが、里山のコンセプトの庭は、心揺さぶる、どこか懐かしい、見たことあるような庭です。日本の景色を作るのですが、その土地の植物を使用して作るので、そこで暮らす人が懐かしがる。そんな懐かしい庭が評価されたんだと思います。

 

――受賞を機に、今後取り組まれたいことは何ですか?

やはり、キーワードは「里山」。そこで花が咲き乱れると皆が笑顔になり、平和な気持ちになる。平和な世の中にすることに貢献するためにも、シンガポールの里山、イギリスの里山、ケニアの里山というように、その国の植物を使って庭を作っていきたいです。

 

――座右の銘はありますか。

お茶の言葉で、「花は野にあるように」――花はやっぱり野に咲いているのが一番美しい。そういう風に自分らしく生きていけたらと思います。

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クリスマス・シュガーマウンテンChristmas Sugar Mountain at Gardens by the Bay

期間: 2013年11月20日(水) ~ 2014年1月5日(日)
開園時間: 9:00~21:00 Tel : 6420-6848
場所:ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ内フラワードーム(Flower Dome)

※フラワードームへは有料。詳しくはウェブサイトにて確認を。

石原和幸

1958年長崎県生まれ。大学卒業後、華道家元池坊に入門。長崎で花屋を開業。国際ガーデニングショーの最高峰である英国のチェルシー・フラワーショーで苔を使った庭で独自の世界観が高く評価され、2006年から異部門で史上初の3年連続金メダル受賞。2012年、2013年とアルチザンガーデン部門で金メダルを受賞するなど、快挙を成し遂げた。日本の風景の美しさをアピールし、世界各国で庭と壁面緑化事業を展開、環境保護に貢献すべく活躍中。株式会社石原和幸デザイン研究所代表。

 

2013年12月04日
文= 桑島千春

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