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法律相談

2007年3月5日

Q.シンガポールの汚職行為法について、会話形式でご説明いたします。

Aさん

先日、シンガポールの得意先企業の担当者のBさんを接待ゴルフに誘いましたところ、「それは会社の内規で『法律違反の行為になる』と規定されているから」とのことで断られてしまいました。接待ゴルフまで法律で取り締まられているなんて、本当ですか?

 

弁護士

そうですね、接待ゴルフを提供することや、その提供を受けることがシンガポールの汚職行為法に違反する可能性はあります。私人の私人に対する行為も汚職行為法にて規制しているのですね。もっとも、同法は、顧客に対する接待全てを私企業に対して禁止しているわけではなく、接待ゴルフ全てが同法に違反するというわけではありません。

 

Aさん

そうなんですか。それでは具体的にはどのような接待がその法律で禁止されていて、いかなる罰則があるのでしょうか?

 

弁護士

汚職行為法では、ある事柄や取引に関して、「何か」をすることに対する勧誘や報酬としてのいわゆる「心づけ」を「不正」に与えた者、また「不正」に受け取った者は、違法として有罪となります。その場合は、10万シンガポールドル以下の罰金および(または)5年を超えない禁固の刑が科されます。

 

ここでいわゆる「心づけ」には、お金やプレゼントの他、お金の貸付、人の雇い入れ、契約の締結、義務の免除やサービスなどを含むものとされています。

そして、「不正」とは、通常また客観的にも「不正」であり、それが「不正」であることを知っていることが必要です。一般には、他人の職務上の権利や義務と一致しない利益を与える意図と共に行われる行為や、職務上の地位を利用して、権利義務と一致しない利益を得る行為などと定義されます。

 

先ほどのゴルフ接待の場合、例えばAさんが担当者のBさんを、Bさんの職務に反して、Aさんの会社の利益になるように誘引するため、無料のゴルフに招待した場合、そして、Bさんが会社の内規に違反することを知ってAさんのゴルフ接待を受け入れた場合、AさんもBさんもそれぞれ汚職防止法に違反することになります。

 

すなわち、例えば、会社の物品購入担当者の義務は、最良の商品を最低の価格で販売元から購入することがあげられますね。しかし、もしその者がゴルフの接待を販売元から受けたため、その販売元から高い価格で物品を購入するということになると、物品の購入が、会社の利益のためではなく、ゴルフの接待を受けたから、という個人的な動機で行われるということが生じてしまう。結局会社は、その担当者のゴルフの接待を受けるという個人的な利益のために、粗悪な品を高い価格で買わなければならなくなる。これは結果として、会社の費用を増大させ、競争力を低下させることにつながる。このような行為をシンガポールの汚職防止法は刑罰を持って禁止しているのです。

 

Aさん

なるほど、以前からシンガポールは汚職行為に厳しいとは聞いていたのですが、これについては知りませんでした。

 

弁護士

そうですね。汚職の防止はシンガポールの安定した経済発展の一つとして位置づけられており、政府の重要な政策の一環です。同法は、汚職行為を禁止すること自体を定めるだけでなく、様々な方策を設けて、汚職行為を防止しようとしています。たとえば、同法には、汚職行為の発見を容易にするべく、一般市民に対して関係機関からの情報提供の要請に応える義務が法律上の義務として規定されています。半面で、通報は匿名で行うことが許される等、通報者保護の規定も設けています。

 

また、同法は、公務員に対する汚職行為に対してはさらに特別な規定を置いて取り組んでいます。例えば、「心づけ」が公務員に対して与えられた場合、それはある事柄や取引に関して何かをしてもらうための勧誘材料または報酬としてなされたものであると推定されることになり、これを争うためには、反対の証拠が必要になります。また、「心づけ」を不正に提供された公務員は、法律上「心づけ」を提供してきたものを逮捕しなければならず、もし逮捕しなかった場合は、今度はこの公務員が汚職行為法によって刑罰に科されることになるのです。

 

このような法律の下支えがあって、シンガポールでは世界でもトップレベルで汚職が少ないと言われる社会が実現しているのですね。

取材協力=Kelvin Chia Partnership

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.093(2007年03月05日発行)」に掲載されたものです。

本記事は、一般情報を提供するための資料にすぎず具体的な法的助言を与えるものではありません。個別事例での結論については弁護士の助言を得ることを前提としており、本情報のみに依拠しても一切の責任を負いません。

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