シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP2009年度予算案で「欠損金繰り戻し控除制度」の適用が拡大される...

会計・税務相談

2009年3月2日

Q.2009年度予算案で「欠損金繰り戻し控除制度」の適用が拡大されると聞きましたが、「欠損金繰り戻し控除制度」とはどんな制度ですか。

「欠損金繰り戻し控除制度」とは?

「欠損金繰り戻し控除制度」は、2005年度予算における税制改正で初めて導入された制度です。この制度は、業績の悪化により黒字から赤字に転落した事業のキャッシュフローを支援するために、当期に発生した欠損金を前期の課税所得から控除し、所得税を還付するという制度です。元来、シンガポールの税法では、事業に発生した欠損金を繰り越して将来の課税所得から控除することは認められていますが、この場合、事業主は、黒字化して課税所得が生じるようになるまで、その恩恵を受けることができません。「欠損金繰り戻し控除制度」では、過年度に納税対象となった所得から控除することにより、欠損金の税効果を早期に実現することが可能になります。

 

現行制度では、当該賦課年度に発生し、益金から控除しきれないキャピタルアローワンス(税務上の減価償却)を含む欠損金について、10万Sドルを限度として直前1賦課年度の賦課対象所得(Assessable income)から控除することが認められていますが、今年度予算案で、2009及び2010賦課年度に発生した欠損金については、1賦課年度につき20万Sドルを限度として直前3賦課年度の賦課対象所得から控除することが認められることとなりました。繰り戻された欠損金は、より早い賦課年度の賦課対象所得から先に控除されます。例えば、2009賦課年度に発生した欠損金の場合には、2006賦課年度、2007賦課年度、2008賦課年度の順に、合計S$200,000までの賦課対象所得から控除することができます。2007賦課年度までは20%の法人税率が適用されていたので、繰り戻し控除の適用により1賦課年度につき最高4万Sドルの還付を受けることが可能です。又、法人税率は年々下がっていますので、欠損金がある場合には繰り越すよりも繰り戻して控除した方が節税額も大きくなります。尚、この制度は、法人のみならず、事業所得を有する個人事業者にも同様に適用されます。

 

キャピタルアローワンス及び欠損金の繰り戻し控除には、繰り越し控除同様に「株主テスト」と称する要件が課せられており、キャピタルアローワンスの場合には控除しきれないキャピタルアローワンスが発生した賦課年度の1月1日と繰り戻し控除する賦課年度の12月31日、欠損金の場合には欠損金が発生した会計年度の1月1日と繰り戻し控除する賦課年度の12月31日の株主構成を比較し、究極の株主の50%超が変動していないことが適用要件とされています。

 

繰り戻し控除の申請において、現行制度では、法定監査が義務づけられている会社の場合、当該賦課年度の監査済決算書及び税額計算書、並びに繰り戻し控除の対象となる過年度の修正税額計算書を提出しなければなりませんが、2009及び2010賦課年度については、申請時における上記文書の提出が免除され、見積課税所得(ECI)の申告と併せ、「キャピタルアローワンス及び欠損金繰り戻し控除選択書」に未控除キャピタルアローワンス及び欠損金の見積金額を記入して提出するだけで還付手続きが行われることとなりました。

 

これにより、決算終了後、現行制度より早い時期に繰り戻し控除を申請することが可能になります。更に、還付手続きに要する期間についても短縮され、税務検査官は申請を受理してから1ヵ月以内に修正賦課決定通知書を発行し、更にそれから30日以内に還付を実施するとしています。

 

シンガポールでは、先日リー・シェンロン首相が2009年の同国の国内総生産(GDP)成長率についてマイナス5%以上の縮小になる可能性もあると発表したばかりで、先行きは非常に厳しいものとなっています。この困難な時期を乗り切るためにも、今年度予算案で発表された政府支援策の中に貴社で活用できるものがないか、是非検討してみてください。

取材協力=斯波澄子(Tricor Singapore Pte. Ltd.

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.140(2009年03月02日発行)」に掲載されたものです。

本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別ケースについて、正式な会計士の助言なく、本情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP2009年度予算案で「欠損金繰り戻し控除制度」の適用が拡大される...