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嶋津良智の「リーダーにつける薬」

2011年10月3日

上司だって生身の人間

サラリーマン時代に営業部長をしていたころ、上司として非常に厳しく対処していたことがあります。それは、「遅刻」です。なぜなら、遅刻は何一つ生み出すもののない迷惑行為だからです。

 
ところが、もう20年位前になるので記憶が途切れていますが、ある日とても大切な日に私自身が遅刻をしてしまったことがありました。既に起きたときには始業時間が過ぎていたので完全な遅刻なのが分かっていただけに頭が真っ白になり、とにかく会社に早く向かうことだけを考えて六本木の事務所まで向かいしました。もう、頭の中で言い訳やら謝罪やら信頼の失墜やらが駆け巡り、どうしようとあたふたしていたのを覚えています。

 
しかし、今から思うと当たり前なのですが、その時私が出した結論は、遅刻した事実を自ら受け入れて全員の前で謝罪をするということでした。ただし、あれだけ普段遅刻にうるさく言っている張本人の遅刻ですから、普通の謝罪では部下に示しが付かないと思い、土下座をして謝る決意をしました。事務所の扉の前で深呼吸をして、勇気を持って扉を開けた後「おはよー!大変申し訳ない!寝坊して遅刻しました」といって、入り口のところで土下座をしたのを覚えています。

 
ところが、その夜ある部下から「嶋津部長、あんなの取引先に立ち寄ってきたとか言って何もなかったかのように入ってきたら、たぶん我々は誰も何も思わなかったですよ。でも、その正直なところが嶋津さんのいいところなんですけどね」と言われてしまいました。

 
私はこの体験を通じて、人としての弱さを大切にすることを覚えました。上司とて生身の人間ですから、失敗もすれば間違いも犯します。自分が自分であるために自分らしくいることが大切であり、ごまかして偽った自分では部下はついてこないのです。

 
みなさんは「ジョハリの窓」というのをご存知ですか?自分も知っていて他人も知っている「開放の窓」、自分は知らないで他人が知っている「盲点の窓」、自分が知っていて他人が知らない「秘密の窓」、自分も他人も知らない「未知の窓」という4つの心の窓についてのお話です。詳細は調べていただくとして、人間の魅力は「自分も知っていて他人も知っている『開放の窓』の極大化」、要するにオープンで正直な人だということです。皆さんは普段から正直にそしてオープンに生きていますか?

文=嶋津良智(しまづよしのり)


株式会社リーダーズアカデミー
代表、シンガポール在住。
2度の株式上場体験を活かし、日本・シンガポールを始め、アジアを中心に経営コンサルとして活動。世界9ヵ国12都市でチャリティーセミナー実施。
最強の部下を育成し、最強の組織を作る、業績向上のための独自プログラム『上司学』が好評を博す。著書7冊執筆、韓国・台湾でも翻訳されている。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.198(2011年10月03日発行)」に掲載されたものです。

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