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2015年5月18日

技術をお金に変える法〈第6回〉 異分野市場での事業化例②〜使い方の見える化〜

1.使い方の見える化

新商品開発をする際、部品のコンセプトが先進的だと顧客がどのように使ったらよいのか全くわからずに、優れた技術が世に出ぬまま葬り去られる場合があります。そういう場合の解決策の一つが、「使い方の見える化」です。今回は、業務用のモジュールを一般消費者が使えるような完成品の中に収め、新しい使い方を開拓したプロジェクト事例を紹介します。
訴求ポイントは次の3点。(1)一般消費者が使える物であること(2)従来の使い方の常識から離れること(3)3Dプリンターなどで完成品の模型を見せること。
実施する手順は以下の通りです。(1)際立った技術コンセプトを抽出する(2)技術的仕様を顧客のベネフィットに変換する(3)異分野でのテストマーケティングを繰り返す(4)ターゲット顧客を1点に絞り込む。

 

2.家庭用の卓上型カメラの誕生

Screen Shot 2015-07-23 at 3.49.01 pmこのプロジェクトは、「360度の全周囲が映せる」という画期的な監視カメラのモジュールを企画し製品化しました。しかし最初は、顧客のニーズにマッチする市場がなかなか見つからなかったのです。「技術とコンセプトは面白いが、使い方がわからない」。「監視カメラとしては解像度が低すぎる」。これが、従来の業務用監視カメラメーカーからの声でした。
そこで、監視用途以外で全周囲の映像を必要とする、一般消費者向けの成長分野を模索することにしました。通常、カメラといえば手に持つ、三脚に据え付ける、壁や天井に埋め込む、という使い方が常識です。そこで「360度の全周囲が見渡せる」という際立った技術コンセプトを活かせるカメラの形態を探り続けたのです。その結果、机の上に置いても一見カメラに見えない、今までの当り前を覆す卓上型カメラの模型を、3Dプリンターで製作しました。
更に業務用目的ではないため、展示会や異業種交流会を通じて一般のエンドユーザーに直接、カメラの模型を見せることにしました。すると、全く異分野の通信キャリアから声がかかったのです。「携帯電話を通して外出先から見られるシステムにしませんか?」。ついに、通信キャリアと協業した「モバイルモニタリング」という新しい使われ方が開拓されました。

 

異分野コラボで見つかった市場

この新しい使い方でマーケティングを繰り返したところ、外見がカメラに見えず、あまり鮮明な画像が写らないことを望むニッチ市場が見つかりました。介護ビジネスです。
介護をする人は、家に残す介護家族の事が気になって、美容院や買い物に出かけるのもままなりません。このような人達にとって携帯電話は、出先からちょっと家にいる家族の様子を見るのに便利なツールです。さらにカメラにスピーカーとマイクをつけたことにより、会話をすることも可能になりました。
一般家庭で使われる場合、撮影される側にも「監視してほしくない」という思いがあるため、鮮明に映らないことが却ってプラスとなりました。業務用の監視カメラとしては「解像度不足」と指摘された弱点が、逆に顧客のベネフィットと長所に変わったのです。
このシステムは介護以外にも、留守宅の様子が気になる人やペットの様子を見たい人など、当初は1点絞り込みのターゲットが、逆に多くの用途に発展していきました。

 

shimokawa下川 眞季(しもかわ まさき)

株式会社ダヴィンチ・ブレインズ代表取締役・技術士(経営工学)
慶応大学大学院修了後、1982年にソニーに入社。デジカメの電子シャッター特許で全国発明表彰受賞。社内で最高位の特級特許表彰も2度受賞。技術をお金に変える方法や、アイディア発想法を伝授すべく、全国の商工会議所などで講演活動を行っている。

ウェブサイト:shimokawa-kikue.com

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.280(2015年05月18日発行)」に掲載されたものです。

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