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法律相談

2015年7月6日

Q.シンガポールでは、新たにシンガポール国際商事裁判所が設立されたと聞きました。シンガポール国際商事裁判所とはどのような裁判所ですか。

シンガポール国際商事裁判所について

シンガポール国際商事裁判所は、増加する国際的な商事紛争(ビジネス取引上のトラブルなど)を解決することを目的として、2015年1月5日から正式に運用が開始された裁判所です。

 

 

Q:従来からあるシンガポールの裁判所とは何が異なりますか。

A: シンガポール国際商事裁判所は、シンガポール高等裁判所(High Court)の一部門として設立されたものですが、シンガポール裁判所の裁判官に加えて国際的な法律専門家、つまり、シンガポール国外の法律専門家も裁判官として加わっていることが特徴の一つです。シンガポール国際商事裁判所では、シンガポールの法律だけではなく、他国の法律が問題になることも想定されており、そのためにシンガポール以外の国の法律専門家も裁判官として選任されています。日本の谷口安平・京都大学名誉教授も裁判官として選任されています。

 

 

Q:シンガポール以外の国の弁護士も訴訟活動を行うことができるのでしょうか。

A: 従来のシンガポール裁判所では、外国人の弁護士が法廷で訴訟活動を行うことは認められていませんでした。しかし今回、弁護士法等が改正されて、シンガポール国際商事裁判所に登録された外国人の弁護士も、シンガポール国際商事裁判所において訴訟活動することができることになりました。これにより、外国企業は自国の弁護士に代理してもらうことも可能になります。

 

 

Q:シンガポール国際仲裁センターとシンガポール国際商事裁判所は何が異なるのですか。

A: シンガポール国際仲裁センターにおける仲裁手続は、東南アジア地域における有効な紛争解決手段の一つとしての地位を築いています。しかし、国際仲裁では、上訴手続がない、複数当事者間の紛争において利用できない、仲裁判断が公開されないため判断の予測可能性に乏しいなどのデメリットも指摘されています。これに対して、シンガポール国際商事裁判所は、複数の当事者が関与する紛争も取り扱うことができ、上訴手続も定められているなど、仲裁におけるデメリットを補っています。

 

 

Q:シンガポール国際商事裁判所の判決で勝訴した場合、シンガポール国外にある相手方の財産も差し押さえることができるのですか。

A: シンガポール国外での判決の執行についてはまだ不確かなところがあります。裁判所の判決は国家の権力行使の結果ですので、原則としてその国でのみ効力を持つものです。しかし、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア等の国では判決の執行について相互承認があるため、シンガポール国際商事裁判所の判決も執行することが可能であるといわれています。また、他の外国であっても、当該外国の裁判所がシンガポール裁判所の判決を承認、執行する場合があります。例えば、シンガポール裁判所の判決が日本において執行された事例がありますので、シンガポール国際商事裁判所の判決に基づく日本国内での執行も認められる可能性があります。
シンガポール国際商事裁判所における裁判が、シンガポール国際仲裁センターでの仲裁に加えて、東南アジア地域の新たな有力な紛争解決手段の一つになるかもしれません。シンガポール国際商事裁判所はまだ運用が開始されて間もないため、これからの動向を注視する必要があります。

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 髙橋 俊介

 

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.283(2015年07月06日発行)」に掲載されたものです。

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