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2010年10月18日

日本の環境関連技術を、うまく適用させる事が必要・他

日本の環境関連技術を、うまく適用させる事が必要

日経BPの2010年9月13日付「インドに“太平洋ベルト地帯”ができる日」は、インドの首都ニューデリーとインド最大の商業都市ムンバイの間に貨物専用鉄道・道路を敷設し、これに沿って工業団地や発電所などのインフラを整備するという巨大プロジェクトについての記事でした。

この壮大な構想は、日本サイドが「太平洋ベルト地帯」にヒントを得て、提案したことがきっかけとなったものです。しかし、昨年末に完成したマスタープランを作成したのは、欧米・シンガポール企業。入札には日本のコンサルタントも参加し、技術面では満足いくものでしたが、価格面で負けました。

この巨大プロジェクトの正式名は、「デリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)」です。インド側は、経済発展とともに、都市化に伴う公害・環境問題を解決してきた日本のノウハウに期待して、2006年12月に日印首脳間で合意に至り、プロジェクトが正式スタートしました。DMICの「背骨」に当たる貨物専用鉄道は、2017年の完成目指して動き出しています。貨物専用鉄道の建設資金については、日印両首脳間でタイド円借款(資材の調達先を日本企業に限定する円借款)によって、日本が援助するスキームで合意されています。

DMICの「本体」に当たる工業地帯の開発については、2006年に日印首脳間で基本合意し、DMICの運営を担当するデリー・ムンバイ間産業大動脈開発会社(DMICDC)を中心に、具体化に向けて動き出しています。そこで、日本サイドがDMICDCと協議のうえ、日本企業が得意な環境技術やITを駆使したプロジェクトを計画しました。それが「スマートコミュニティ」構想。来年3月までの1年間の予定で現在事業化調査(FS)を行っています。将来的にはその計画をマスタープランに入れ込み、日本の技術やシステムを入札条件に入れて、実際の事業化の際に日本企業が有利な立場となることを狙います。

DMICはせっかく日印共同で始まったプロジェクトであり、円借款などの形で貴重な税金も使われています。日本企業が培ってきたスマートグリッド技術や水処理などの環境関連技術を、インド各地のニーズに合わせていかにうまく適用できるかが問われています。

 

グループの巨大化と国際化で、経営のプロ求む

朝日新聞2010年9月19日付の記事「インドのタタ財閥、悩む代替わり 外国人登用も視野」は、インド最大の財閥タタグループで始まったラタン・タタ会長(72)の後継者選びについてのもの。創業以来140年あまりゾロアスター教徒のタタ一族が継いできましたが、インドのゾロアスター教の信者数は61,000人にまで減っており、25%は独身のまま生涯を終えます。売上高700億ドルのグループを率いるタタ会長も独身を貫いたことで子供はいません。

グループは8月、内外の5人からなる専門委員会を立ち上げ、本格的な後継者選びをスタートさせました。背景にあるのはグループの巨大化と国際化で、タタ氏が会長に就いた1991年に比べ売上高は20倍以上に成長、海外企業の買収を積極化させたことで、売上高の約7割は海外となっています。

後継者候補として取りざたされているのは、英ボーダフォンのサリン前CEOや、米ペプシコのニューイ会長、ルノー・日産のCEOを兼ねるゴーン氏など、一族とは無縁の経営のプロたちです。

タタ・スチールは1912年に1日8時間労働を採り入れ、労働者に対する無料の医療を提供、グループはこれまでは大量解雇とも無縁です。タタ・スチールでは82年間ストライキが起きておらず、極左ゲリラも、タタグループには手を出していません。一方で、経営陣に支払われる報酬は相対的に低く、グループ役員の平均報酬は年間1,000万ルピー(約1,840万円)ほどで、タタ会長の年収も1,000~1,500万ルピー程度とされます。

タタグループと日系企業とのつながりは古く、1893年日本郵船はタタ商会と協力して、ムンバイ─日本間に航路を開設、インドからの綿輸入が拡大し日本の近代化に貢献しました。双日も旧鈴木商店時代から、銑鉄の取引などで100年近い関係があります。最近では、09年にNTTドコモが携帯電話会社「タタ・テレサービシズ」に出資、新日本製鉄は今年1月、タタ・スチールとの合弁会社を発足させました。汚職文化が甚だしいインドで、タタは企業倫理の厳しさで知られ、日系企業が提携先に選ぶ理由にもなっています。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.177(2010年10月18日発行)」に掲載されたものです。

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