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インドの今を知る

2011年4月18日

法務体制の整備と、労使間のコミュ二ケーションが大事・他

法務体制の整備と、労使間のコミュ二ケーションが大事

東洋経済オンライン2011年3月3日付の記事「日本と大きく異なるインドの労働法、雇用時には契約締結を」は、インドを専門分野の1つとして活躍する日本人弁護士の琴浦諒氏へのインタビュー。

インドの労働法の特徴は、被雇用者が、「労働者」と「経営者・管理職」という2つのカテゴリーに分けられていることで、「労働者」の場合は、法令上の解雇規制があるため、解雇での訴訟が起きやすくなります。

インドでは、中央政府が定める労働法と州ごとに異なる労働法があり、州法では店舗・施設(事務所)などに適用される休日や有給休暇の日数などを定めたShop & Establishments法があり、工場で働く工場労働者には、連邦法である1948年工場法が適用されます。

面接、採用、雇用契約で注意すべき点としては、まずきちんと雇用契約を結ぶことです。インドでは判例上6ヵ月程度認められている「試用期間」を設けた方がいいでしょう。また、雇用契約書に「経歴に詐称、虚偽がある場合、雇用契約を解除可能」である旨は規定しておく必要があります。

社内労働組合がある日系企業は少ないですが、普段からこまめに社員の不満を聞き、うまくガス抜きして、従業員に「社内労組を作ろう」という発想に持っていかせないことが重要です。もしできてしまったら、早めに労働協約を締結して、紛争発生時の対応や、ストライキの場合の取り決めをし、できるだけ穏便に済ませるように、話し合いで解決にもっていくのがいいでしょう。

また、労働者の場合、職務内容に関するトラブルも多く、本来の業務以外のことを行わせる際は要注意です。例えば、運転手に空き時間にオフィスの掃除を指図することなどですが、インド人は決められたこと以上はやりたがりません。

一般論として、契約や法令上の規定そのものが原因で、被雇用者との間でトラブルが発生するという例は少ないもの。多いのは、何らかの理由により被雇用者と会社側の関係が悪化した時に、初めて被雇用者側があら捜しをし、契約内容などの不備を指摘して有利に持ち込もうとしてくるケースです。ただ、スキのない法務体制を整えておくのに越したことはありません。

海外の親会社に払うロイヤルティ上限撤廃のその後

日経BPの記事「インドの外資系会社が親会社へのロイヤルティを増額」(2011年3月23日付)によると、2000年ごろ、ネスレ・インディア(本社・ニューデリー)は年間5億6,730万ルピー(約10億円)という同社の総利益の43.46%を占める巨額のロイヤルティをスイスの親会社ネスレに支払っていたため、インド所得税局の調査対象となりました。インド税務当局は、商品の製造および販売ライセンスの供与分は認めましたが、サービスについてはロイヤルティ支払い前から入手できていたとして告発。審判所は親会社への依存は競争力維持のためとして、ネスレ・インディアに有利な裁定を下しました。

11年後の今、インド商工省は2010年4月、海外の親会社に払うロイヤルティの金額について上限をなくしました。ただ、高額のロイヤルティ支払いは、いずれ配当として支払われるはずの純利益を減らし、親会社ではない少数株主に影響を及ぼすことと、そうした支出が税の徴収に影響するという問題があります。ロイヤルティにかかる税率は10.56%で源泉徴収されますが、外資系企業の利益にかかる税率は42.23%です。

今回ロイヤルティの金額について上限がなくなったことで、印自動車メーカー最大手マルチ・スズキは、2010年4~6月期のロイヤルティをその前の四半期の売上高の3.4%から5.1%に引き上げました。ただ、このニュースは投資家の受けが悪く、マルチ・スズキの株価は12%以上下がり、52週間ぶりの安値1,191.45ルピーを記録しました。

ムンバイの証券会社のアナリストは、「インド市場はスズキにとって世界有数の成長市場であり、スズキはそこから最大限のものを手に入れたいと考えている」と指摘。これに対して、マルチ・スズキは同社のロイヤルティ送金額はやっとスズキの世界標準に並んだと述べています。しかしアナリストは、ロイヤルティの増額は、マルチ・スズキのマージンやフリーキャッシュフローを損なっていると見て、「『競争が激化する中で、マージンを維持する力が同社にあるのか』という疑問が持ち上がっている」と語っています。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.187(2011年04月18日発行)」に掲載されたものです。

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