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インドの今を知る

2011年11月7日

日本の中小企業にとって「あきらめてはならない市場」・他

日本の中小企業にとって「あきらめてはならない市場」

MSN産経ニュースの記事「賄賂、嫌がらせ、宗教トラブル… インド進出日系企業の光と影」(2011年9月22日付)は、日本企業、特に中小企業がインドに進出する上で抱える課題について。チェンナイ近郊には東芝、パナソニック、日産自動車などの日系企業が進出を果たしています。進出で最初に直面した問題が、工業用地の確保でした。日系企業が購入を検討中と知れると、途端に地価がつり上がってしまうため、提携先の地元企業をダミーに交渉を行うなど苦労を強いられたようです。役所への陳情で机の下から手が伸びてきて、賄賂を要求されることも日常茶飯事。拒否すると、「申請書を抜き出し、うずたかく積み上げられた書類の一番下に置かれてしまう」(進出企業)そうです。

労働者の確保も難題でした。現地の最低賃金は1日200ルピーと低いものですが、インドに進出している前川製作所の平迫靖規氏は「少し仕事を覚えると、よりよい待遇を求めて転職してしまう」と嘆きます。ヒンズー教の厳格なカースト制の階級で、下の社員が能力重視によって上司になると、ストライキが起きることがあるなど、宗教上のトラブルも少なくありません。

中国企業との競争も激しさを増しています。東芝の石橋格氏は「意思決定の早さに加え、日本企業が忘れてしまった、なりふりかまわないハングリー精神がある。ぐずぐずしていると中国企業が市場を席巻する可能性がある」と警戒します。インド政府関係者によると、「電力事業の7割、通信機器の8割は中国企業が落札している」ということです。

日本商工会議所の調査では、海外進出した中小企業の半数が撤退を余儀なくされています。

それでも、人口12億人超の人口を持ち、年率9%前後の高い成長を続け、1兆ドル規模のインフラ整備計画もあるインドの魅力は大きいものがあります。

国内市場の縮小や急激な円高に苦しむ日本の中小企業には「あきらめてはならない市場」(三井物産の大橋信夫顧問)です。

第1次産業の供給面での制約が、インフレ要因

日本経済新聞2011年9月28日付の記事「インド製造業の苦闘」によると、インド北部ハリヤナ州マネサールにあるホンダの工場では20秒に1台の割合でスクーターが生産されているものの、「インドのスクーターとオートバイの需要増に対応できないでいる」そうです。

同社は新工場建設も計画しており、機動力が所得を増やす機会につながる、若者層を販売の目標に据えています。ところが、ここ数ヵ月の間に生産費が大幅に上昇しています。

二輪車は携帯電話と並ぶ最も急速に成長している消費分野の一つですが、その分野が直面する問題は印製造業の脆弱性を物語っています。ホンダのスクーターとオートバイは100%国産の原材料で生産されており、それらの価格が大幅に上昇しているのです。鉄鋼、アルミ、銅、ゴムなどすべてが値上がりしていますが、同業他社との競争が激しく、ホンダは値上がり分を消費者には転嫁していません。

インドの労働コストも大幅に上昇しており、労使関係が微妙だという問題もあります。マネサール工業団地の近くに、インド最大規模のマルチ・スズキ自動車工場がありますが、労働争議が原因で操業を停止したままです。

インドのインフレ率は新興市場国の中で最も高いものです。中央銀行は金融引き締めもあって今年度の経済成長目標を8%へと引き下げました。ホンダの販売担当N・K・ラッタン氏は、国営が多い第1次産業の供給面での制約がインフレ要因だと言います。

今後世界的に1次産品が値下がりしたとしても、インドのインフレは今後も長く続くだろうとも言われています。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.200(2011年11月07日発行)」に掲載されたものです。

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