シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX求人TOP経営と人的資産のイノベーション

Employer's Voice

2012年5月7日

経営と人的資産のイノベーション

NTT DATA Asia Pacific COO 宇都宮 暢人 業種:IT

弊社の業種は、システムインテグレーション、特に業務アプリケーションが主たる事業です。この分野は昨今の情勢とは裏腹に、10年前を振り返ると各国に優秀層はいましたが、グローバル人材は少なかったように思います。お客様の業界を問わず、事業運営が国内志向で、システムを作る人材もまた然りでした。それで特に問題はなかったように思いますし、弊社でも各国内での運営が中心でした。グローバル大競争時代が始まると意識しながらも、経験を得る場は限定的でした。

昨今、ほぼすべての業界で、グローバルオペレーションは前提化してきています。もちろん、例えば製造業は製造業ならではの、保険業界は保険業界ならでは運営形態があり、業界によって千差万別です。ひとつの業界の中でも個社ごとに運営は特徴的で、差別化要素の源泉のひとつにもなっています。非常に大きくかつ急激な変化は多くの課題と成果をもたらしていますが、どこまでいけば最終形なのか分からず、ただ少なくとも現在は努力途上で、絶えることなく新たな取り組みが必要であるように思います。努力を要することは不朽ですが、グローバルという要素が追加された印象があります。このように、弊社も小職も試行錯誤を繰り返していく中、人材が最も重要な経営ファクターであることを意見交換する機会がここ数年で非常に多くなってきています。小職自身、なぜそうなのかはっきりしたことは言えないのですが、課題としての重要度が高まっているように思います。グローバル人材の育成、次世代経営者の育成、両者はかつて別々に議論されていたこともありましたが、年々重なっている度合いが増してきています。

シンガポールでは東南アジアにおける地域統括(RHQ)として各国を事業統括することが多く、人事制度や人材育成についても子会社からの期待は大きいと思います。ごく限られた卓越した企業を除き、多くの企業では、グローバル事業運営は大いに属人的で、事業運営を可能ならしめている人材は余人をもって変えがたい状況があります。次々と次世代グローバル経営者が輩出できるような組織基盤を持てるようになるまでの道のりは長く、さりとて課題解決の見通しは速やかにつける必要がある、という悩み多き状況もあると思います。

私共はかつて日本国内でほぼすべての事業を運営しており、海外に進出したのもグローバルオペレーションを始めたのも近年のことでした。IT業界の特性も相まって、高齢化問題は重大事ではないのですが、反面、グローバル経営で模範となるような人材は決して多くなく、それはすなわち次世代、次々世代の経営者が学びの機会を得る場が多くないという課題をもたらしています。

弊社では幸いなことにそういった自覚が組織としてあるため、失敗をおそれず挑戦を奨励する文化、学ぶ機会を大切にしたいという想いはあります。それでもなお、グローバル人材を輩出することは重要で困難な課題となっています。

誰か特段に優秀な人材をエリート教育して何でもできるようにする、これは私共には逆立ちしてもできないことです。弊社の場合はプロジェクトを実施してシステムを作ったり、サービスを開発したりするのですが、技術革新は常に目覚しく、どのような職種でも、ある特定の専門分野で秀でたものを持っていることがリーダーとして効果的に組織へ働きかける重要な要素となっています。長い時間をかけてそういった素養を修得しつつ、例えば自らは所属しない組織や(他国の)グループ会社と連携する、あるいはお客様のシステムを海外展開する、そして更に、自らの環境の中にマネジメント能力開発の機会を見出していく、そういう形しかないのです。与えられた教育ではグローバル経営者を生み出すことは私共には難しいように思います。

前述のような事業特性を持つ弊社が、会社としてできることは限られています。社員ひとりひとりが意欲を持ちたい、あるいは持ち続けられる、そのような職場環境を作っていくことが大変重要なわけですが、一方で社員ひとりひとりの状況もさまざまです。本当に重要なこと、例えば、「誠実であること」を絶えることなく持ち続けることは、実は職場環境ではなく本人の努力の賜物であったりします。

それでもなお、会社として人材育成についてやるべきことを見出し、実施し、成果を喜び、失敗を反省し、次に活かすという動作を頑張っていくのだろうと思います。弊社は道半ばというよりもグローバル経営という観点では若手ですから、努力は一層必要なことですが、先輩諸兄も数多くいらっしゃるので、自らの努力の殻に閉じこもることなく、先達に学ぶことも楽しんでいきたいと思います。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.211(2012年05月07日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX求人TOP経営と人的資産のイノベーション