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2012年5月21日

薬剤師がマーケティングで学んだこと

ニホンプレミアムクリニック マーケティング・エグゼクティブ 高橋 房子 業種:医療

人材の採用に直接関わる立場ではありませんが、シンガポールで10年以上仕事をしてきた経験から、今回は人生の転機の中で転職を決断される方々にエールをおくらせていただきたいと思います。

薬剤師として某日系クリニックで仕事を始め、約10年勤務した後ニホンプレミアムクリニックの立ち上げ応援のため転職してすでに3年が経ちました。この間、私の業務は薬局業務から外来のマネージメント、そしてマーケティングへと変わりました。新しい業務内容をこなすことに追われていた面もありましたが、その経験の中で気づいたのは、医療もサービス業だということ。特に新しいクリニックの立ち上げの中で、その視点は多いに役に立ちました。

医療をサービスと捉えなかったのは昔の話、今は“医療サービス”として経済活動の一つとなっています。つまり、需要と供給のバランスがあるということです。資本主義経済の元では本来なら、高度な医療技術にもそれに見合った対価を支払うべきですが、日本では診療報酬制度によって、手術の担当が研修を終えたばかりの医師でも、ベテラン医師でも、費用は同じ。一方シンガポールでは、公立病院でも医師の経験によって診察料は違うのが当たり前です。仕事を始めたばかりの頃は驚きましたが、フェアな制度だと思います。

医療は日々進んでいます。10年前の常識は時代遅れ。新しい薬、検査、治療指針、行政の動き、もちろん感染症の発生動向にも注意しつつ、毎日のように情報収集。どんな仕事でも必要なのは自己管理能力、そしてスキルアップのための向上心です。ただ、個人的には、薬に関することはアップデートしてきたのですが、営業やマーケティングは分野が違い、なじみもありませんでした。

薬学部を卒業した学生が製薬会社等に勤務し、退職後に病院や薬局で薬剤師として働く、というパターンは割と多いのですが、薬剤師から営業やマーケティング担当へという話は、あまり聞いたことがありません。担当を打診された際は、正直悩みましたが、チャンスを与えられたと思うことにしました。そこで本を読んだり、友人にきいたりして、わかったような気になって、客先でたくさん恥をかくことになりました。きちんと説明できなかったことを、オフィスに戻った後いろいろと考えながら資料を作り直し、また翌日撃沈、という繰り返し。テレアポや飛び込みでの営業も続けました。そんな中で教えられたのは、視点を変えること。四角いものも角度を変えれば丸く見えることがある。こちら側から見えないものが、あちらからは見えたりします。逆にあちらから見えないものを提案していくのが仕事だと気付いて、気が楽になりました。そして、人に会うのが楽しくなりました。

もちろん楽しいことばかりではなく、電話でも訪問先でも、ダメダメが続くと気分が滅入ります。でも、次の訪問先では笑顔が必要。テンションを上げて、気持ちを切り替えなければなりません。ダメだった時は、提案内容に魅力がない、ニーズがないなど何か理由があります。決して自分がダメな訳ではない。ニーズがないところは、無理矢理掘り起こすより“次のマーケット”と考える事にしました。どんなニーズがあるのかを確認するのは大切ですが、できない事はできない。すべてのニーズに応えるためにレッドオーシャンを泳ぐことはない、と考えたのです。ともかく前へ前へと動く事にしました。

いろんな企業を訪問させて頂きましたが、行く先々で出会った働く女性たちは、本当に元気。日本人でもシンガポール人でも、それぞれのポジションで、一生懸命に、でも楽しそうに働いていました。また、シンガポールでは英語が話せなくてもなんとか暮らせますが、仕事ではシングリッシュで冗談の一つも言えないと名前も覚えてもらえません。クリニック内の会議も英語です。ただ、英語はあくまでもツール。あとは度胸と人間力。楽しいことを楽しいといい、シェアすると、楽しいことをしている人間のところに人が集まると思います。

外回り営業に出ていた頃に会った方たちに教わったことは宝です。薬剤師として働いていただけではわからなかったビジネスの世界が、少しだけわかるようになりました。

シンガポールに転機を求めてやってくる人、アジア域内で転職をする人、その理由はいろいろだと思いますが、新しい経験を積み上げることは発見も多く、楽しさはそれに伴う苦労を上回ります。海外ではスキルアップ転職が多いようですが、日本人の転職はそれまでとは異なる職種に就くことも多いようです。また、転勤に伴って、新しい業務に取り組む方も多いでしょう。苦労はチャレンジ、そしてチャンスにつながっています。ぜひ、チャレンジを楽しんで、自分の夢を持って挑戦していってほしいと思います。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.212(2012年05月21日発行)」に掲載されたものです。

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