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Employer's Voice

2014年6月16日

異国の人材と働く時に大切にしている言葉

日本政府観光局(JNTO) 次長 尾崎 健一郎 業種:旅行関連機関

「その国の人の前で、その国の批判をしない事だ。それだけは守ってくれ!」

初めての海外赴任命令に戸惑いを隠せない私を夕食に誘い、普段は冗談しか言わなかった上司が、熱っぽく語ってくれました。
「なんだ、そんな簡単なことでいいのか?」
その上司の一言に、肩の力がすっと抜けていくのを感じ、私は「はい、もちろんですよ!」と大きくうなずいて、すっきりとした気分で、店をあとにしたのを覚えています。

その時ご馳走になったのが、寿司だったのか、焼肉だったのか、はたまた本当にご馳走になったのか(割り勘だったかも?)はすっかり忘れてしまいましたが、上司がくれたその言葉だけは10年以上経って職を変え、上海、香港、シンガポールと任地を変えて、各国の人材と向き合ってきている私を今も支え続けてくれています。

「その国の人の前で、その国の批判をしない」

一見守るのが簡単そうな約束でしたが、実際に海外の人と仕事をしてみるとこれがなかなか難しい、つい約束を破りそうになったエピソードがいくつかあります。

上海ではとても良い雰囲気で一緒に仕事をしていたアシスタントの女性が、昇給額に不満があるという理由で辞表を持ってきたことがありました。なんとか会社に残ってもらえるように彼女を説得しましたが聞き入れてもらえず、結局翌日、彼女は会社を去りました。信頼していたスタッフだったので私はとても落ち込んで、中国人の同僚の前で、つい中国人の働き方に対する不満をぶつけそうになりましたが、ぐっとこらえたことで、事務所での私の信頼を損なわずにすみました。

現在の日本政府観光局の職員として赴任した香港では、数少ない現地スタッフが、2人も同じ旅行業界に転職し、その非情なまでのジョブホッピングに悔しい思いをされられました。あの時、「●●に転職するので辞めさせて下さい!」と当たり前のように切り出してくる香港人スタッフを前に、香港人の会社への忠誠心を問いただしていたら、彼らが他社に移ってからの円滑な連携関係は築けなかったと思います。

シンガポールに赴任して1年、幸いにも約束を破りそうになった事はまだありません。

これからもこの約束と、異国で働かせてもらっているという謙虚な気持ちを常に忘れずに、様々な国の人材と一緒になって、素晴らしい日本の観光魅力をPRして行けたらと考えています。そして、将来的には上司からもらったこの言葉を、今度は私が部下たちに伝えていけたらなと思っています。その時はもちろん約束とともに、10年以上経っても記憶から消えないぐらいの「特上寿司」を「ご馳走」してあげたいです(笑)。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.259(2014年06月16日発行)」に掲載されたものです。

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