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社説「島伝い」

2015年9月7日

「木を見て森を見ず」

目の前に見えている物事のごく一部だけを見て、全体を見通さないことのたとえである「木を見て森を見ず」。ことわざとして広く知られているにも関わらず、この言葉の教え通りに実践し、日々の業務や生活の中で全体を見通して行動していくことは、意外と難しいことのようです。
例えば、誰かが話している時に、途中で遮って「それってこういうことでしょう?」と勝手にまとめたり、「それは違う」と反論し始める人がいます。話の内容が合っていればまだ良いのですが、話の全体像がわかる前に早合点して理解の浅さを露呈しているだけのことも多く、話がズレてややこしいことになりがちです。
日々の業務においても、自分の担当範囲を見るだけでは、仕事全体が順調に進んでいるかどうかを論じることはできません。別の部分で問題が生じていて、全体では大きな遅れが発生していることもあります。常に全体を見て、仮に問題が生じても影響を最小に抑えられるように調整するのがリーダーの役割ですが、リーダーだけでなくメンバーも全体の整合性を常に意識して動いている組織と、自分の担当以外は関知しないメンバーばかりの組織とでは、仕事の成否に大きな差が出るのは言うまでもありません。
また、どこの国でも特に国政選挙の前には「今の与党ではダメだ」という論をよく耳にします。しかし、その理由をよく聞いてみると、その人にとってごく身近な問題がすぐに解決されないことだけであったりします。国民が日々健康で安全に暮らせる社会を作れているか、複雑な国際社会において国益を守りかつ拡大するための政策が取られているか、また、現与党と比較してより良い政策を遂行する力がある党はどこか、大局的な視野に立った判断も必要です。
全体を見通すことは言うほど容易くありませんが、物事の本質を見抜いて適切な判断につなげるためにも、自分に見えているのは物事のごく一部に過ぎないということを肝に銘じて、全体を見ようとしているか、さらには他者が全体を見た上でものを言っているか、常に考え、確認することが必要でしょう。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.287(2015年09月07日発行)」に掲載されたものです。

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