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シンガポール星層解明

2018年12月28日

2019年シンガポールの消費ビジネス大展望

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シンガポール政府主導の配送品受け取りロッカーシステム、試験運用を開始
(2018年12月10日)
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消費者の日常生活を豊かにする消費ビジネス。技術やサービスの興隆によって日進月歩で変化を遂げており、2019年もそのスピードが減速することはないだろう。本稿では、消費ビジネスの中で2019年以降もシンガポールの市場を賑わすと予想される小売・飲食、モビリティ、シェアオフィス、スポーツ・エンタメの各業界を取り上げ、2018年を振り返ると同時に、2019年の動向を考察していきたい。各業界に共通項として浮き彫りになってくるのは、新たな付加価値の創造に向けた各社の積極果敢な姿勢であり、現状維持では淘汰される競争環境の厳しさである。新年を迎えるにあたり、読者の皆様が公私でさらなる飛躍に向けて新たなことに挑戦する際の一考になれば幸いである。

 

小売・飲食業界
顧客体験をめぐる熾烈な競争

 

 3月にはチャンギ国際空港に隣接するジュエル・チャンギに加えて、3年間の改修工事を経てフナンモールが開業予定など、2019年は大規模な複合商業施設の登場が控えている。成長を続けるネット小売との差別化を念頭に、これらの施設は実店舗ならではの顧客体験の創出に工夫を凝らしている。ターミナル1に直結するジュエル・チャンギでは、米人気バーガーのシェイク・シャックの国内1号店や米ナイキの東南アジア最大級の店舗をはじめとする280超の小売・飲食店に加えて、屋内では世界最大級となる落差40メートルの滝が集客の目玉として期待される。シティ・ホール駅から至近のフナンモールでは、最新技術を活用した来店客ごとの消費嗜好に合った販促のほか、eスポーツ(対戦型のコンピューターゲーム)専用エリアでの大会が計画されるなど、来店動機を高めるべくユニークな特徴を打ち出している。
 キャッシュレス社会の実現を目指すシンガポールであるが、実店舗での支払いは現金が40%、クレジットカードが30%、デビットカードが23%、Eウォレットまたはモバイルウォレットが4%(英ワールドペイ調べ)と、かなりの消費者が未だに現金決済を好んでいる。しかし2019年はキャッシュレス、中でもスマホを利用したモバイルウォレットが急速に普及していくとみる。政府は2018年9月にそれまでは各社バラバラだったQRコードを廃止した上で複数の電子決済方法に対応可能な統一のQRコード「SGQR」を導入したほか、シンガポール発の大手ゲーム用周辺機器メーカーの米レイザーは2019年3月までにレイザーペイを導入する予定であり、スマホ決済の普及を後押しする動きが続く。
 2025年には現在の18億米ドル(約2,030億円)から50億米ドル(約5,640億円)まで拡大すると予測されるシンガポールのネット小売市場(グーグル・テマセク調べ)。2019年は配送をめぐる競争の加速が市場拡大に一段と寄与していくとみる。新興物流企業ニンジャ・バンは、ネット小売大手ラザダの顧客が注文した商品を島内のセブン‐イレブン350店舗で受け取れるサービスを2018年10月に開始したほか、郵便・物流大手シングポストは11月に新たな配送システム「LaMP(ラストマイル・プラットフォーム)」を公開すると同時に、1,600超の受け取り代理人を抱える新興企業パーク・アンド・パーセル社と提携することを発表。さらに12月にはHDB(公営住宅)に設置されたロッカーで荷物を受け取れるサービスの試験が政府主導で開始された。ネット小売市場の成熟に伴い各社の差別化要素の比重が商品の品質や価格から配送の利便性に移りつつあるとみており、ラストマイルをめぐる競争は収まる気配を見せない。
 2022年には現在の16.4億米ドル(約1,850億円)から36.1億米ドル(約4,090億円)に達すると見込まれる食品宅配サービス市場(スタティスタ調べ)。中でも約4,000の飲食店と契約する大手デリバルーは、現在は200店にとどまるホーカー(屋台街)からの宅配を2019年中には2,000店まで拡大する計画を持つ。現在同社への注文のうち25%は8Sドル(約660円)以下の料理が占めており、より手ごろな値段で出前を楽しみたい消費者のニーズを取り込むことで市場は飛躍的に成長していくとみる。

 

モビリティ業界
新移動手段の普及に向けた試金石

 

 2018年はシンガポールの配車アプリ大手グラブが米ウーバー・テクノロジーズの東南アジア事業を買収して統合、自転車シェア(不特定多数の利用者に貸し出すサービス)企業オーバイクが2017年の事業開始からわずか1年で撤退と、モビリティ(移動サービス)業界の勢力図が一変した年となった。2019年は新たな企業とサービスの登場により、政府が2030年までに車に頼らない社会を目指す「スマート・モビリティ構想」の実現に向けて、市場は新たな成長局面に入る。
 かねてからシンガポールへの参入が予想されていたインドネシアの配車アプリ大手ゴジェックは2018年11月、金融大手DBSグループ・ホールディングスと提携し、2019年初頭に当地で本格的にサービスを開始すると発表した。ウーバーを買収後のグラブが80%のシェアを握るとされる市場にゴジェックが参入して競争環境が変化することで、消費者には価格とサービスの両面で恩恵が及ぶことが期待される。また、路線バスをオンデマンド方式で提供(運行ルートを利用者の需要に応じて柔軟に変更)するサービスの試験が2018年12月から開始された。2019年1月から6月までは、公共交通大手SMRTが金・土・祝前日の午後11時半から翌午前2時にCBD(中央商業地区)から東部ベドック、タンピネス行きのバスをオンデマンド方式で運行する予定であり、その成果が注目される。
 陸上交通省は2019年1月に、新たにeスクーター(電動キックスクーター)のシェアサービスの登録申請の受付を開始する予定であり、既に国内外の7社が参入を検討しているとされる。各社のサービスは所定の駐輪場でのみ乗り降り可能なタイプと、場所を問わず乗り降り可能なタイプに大別されるが、利用者の利便性とスクーターの稼働率を両立して高められるかが普及に向けたカギとみる。そのほかにも、独ボロコプター社は2019年内にシンガポールでエア・タクシー(空飛ぶタクシー)の試験飛行を計画しており、結果次第では域内各国で深刻化する交通渋滞を回避する最新の手段として実用化が現実味を帯びてくる。

 

シェアオフィス業界
付加価値創造を競う新局面

 

 企業の自社オフィスを代替または補完する位置づけとして働く空間を提供するシェアオフィス(共用オフィス)の存在感がシンガポールでも急速に高まっている。当地におけるシェアオフィスの数は2018年5月末の時点で110ヵ所におよび、年末までには対前年比で約42%の成長が見込まれている(ET&Co調べ)。またシェアオフィスを訪問すると、起業家やフリーランスから支持されているだけではなく、大手企業が全社または一部の部門をシェアオフィスに移管している実態を垣間見ることができる。実際に当地のシェアオフィスに入居する企業の50%以上は多国籍企業とされ(ET&Co調べ)、また世界24ヵ国83都市に展開し、会員数は約32万人に達する業界大手の米ウィーワークにおいては、「フォーチュン500」の企業のうち22%が世界各地のシェアオフィスに入居しているという。
 2019年は20%の成長が予測される当地のシェアオフィス業界であるが(チャンネル・ニュースアジア調べ)、市場の確立に伴い、各社は単にデスクやミーティングルーム、そして交流の場を提供するにとどまらず、個性的な付加価値を売りにし始めている。中でも日本のソフトバンクグループがこれまで約1兆円を投じて大株主となり、島内でも9ヵ所のシェアオフィスを展開する前述の米ウィーワークは、2018年11月に「ウィーワーク・ラボ」と呼ばれるスタートアップ企業の支援を目的とした施設をロビンソン・ロードに開業し、会員企業の成長に向けて様々なプログラムを提供している。また託児所を併設するシェアオフィスも登場している。これまでは自社オフィスの賃料削減や会員企業間の交流を主な訴求点に成長をしてきたシェアオフィス市場。2019年は各社がいかに特徴を出して差別化していくかに注目したい。

 

スポーツ・エンタメ業界
ONEが開拓する新たな市場

 

 世界136ヵ国以上に17億人以上の視聴者を抱え、アジア最大規模を誇るシンガポールの総合格闘技団体ワン・チャンピオンシップ(通称ONE)。2018年1月には日本でトライアルを実施、4月にはインターネットテレビ局のAbemaTVと提携して全大会を生中継するほか、ドキュメンタリーやリアリティ番組の制作などコンテンツ面でも協力体制を敷くことを発表。6月には広告代理店大手の電通と独占的かつ戦略的パートナーシップを結び、ことさら日本での存在感を強めている。そして8月には2019年3月と10月に東京・両国国技館で日本初の大会を開催することを発表。さらに11月には実績と話題性を兼ね備えた秋山成勲選手がONEに参戦することも発表された。
 ONEの創設者であり会長兼CEOのチャトリ氏は日本人の母親を持つことからも(父親はタイ人)、日本への初上陸に対しては並々ならぬ意気込みを見せているが、シンガポールにおいてもさらなる飛躍に向けて新規事業に取り組んでいる。2018年11月には米レイザーや通信大手シングテルと共同で最大5,000万米ドル(約56億円)を投資した上で、2019年内に電通と共同でアジア最大のeスポーツの選手権大会「ワン・eスポーツ」を設立する計画を発表した。eスポーツは2019年にフィリピンで開催される東南アジア競技大会(SEA Games)にて正式なメダル種目となることが決定されており、高まる人気を背景にONEがいかに本業の総合格闘技とシナジーを創出して市場を拡大していくかが注目される。また同じく11月からは、ファッションアイテム中心のオンライン店舗を運営するジリンゴと提携し、ONEブランドのアパレルビジネスを展開している。この提携は、ONEとジリンゴが共に米大手ベンチャー・キャピタルのセコイア・キャピタルから資金調達をしていることが背景にあるとみるが、ONEの認知度がそれほど高くはない現時点でのブランドグッズの販売は拙速に過ぎる感を禁じ得ない。いずれにせよ、成否に注目していきたい。

 

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山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.341(2019年1月1日発行)」に掲載されたものです

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