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2016年11月22日

バリューチェーン全体での強みを生かし アセアンで事業拡大 三菱商事株式会社

三菱商事株式会社理事・シンガポール支店長  髙橋 健司(たかはし けんじ)氏

日本最大の総合商社である三菱商事。現在日本国内および海外約90ヵ国に200超の拠点を持ち、シンガポールへの進出は戦前にまで遡る。電力プラントや各種インフラなど、シンガポールの発展に寄与する重要なプロジェクトに多数関わってきた同社。今後のシンガポール経済の行方や日本との関係のあり方についてどう見ているのか。同社のアセアンでの事業方針とともに、髙橋健司支店長にお話を伺った。

 

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三菱商事の社是である「三綱領」を前に

 

―シンガポール拠点の体制やその位置づけ、業務内容について教えてください。

三菱商事シンガポール支店は、1955年に設立しました。コーポレートサービスおよびトレーディング業務を手掛ける支店に加え、資源・非資源のトレーディングや海運などを手がける約20社の事業投資会社がシンガポールを拠点に活動しています。

 

アジアは、三菱商事全体にとって重要な地域の一つで、シンガポールは当社の事業のハブとして、また新しい事業の開発拠点としての役割を担っています。三菱商事の強みは、多くの産業分野で、バリューチェーン(原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでの一連の事業の流れ)の全てにおいてビジネスを展開できる総合力にあります。さらに世界中に拠点があり、その国に根を張って取引ができるところも強みといえます。こうした点を生かし、引き続きこの地域でのビジネスを成長させたいと考えています。

 

―これまで多数のインフラ、エネルギー関連プロジェクトを手掛けていらっしゃいます。現在の取り組みや今後の方針についてはいかがでしょうか。
インフラについては、シンガポールに限らずアセアン全体で需要が伸びるでしょう。特に電力関連、空港運営や港湾関係のプロジェクトは増加が見込まれます。シンガポールで主体になるのは環境、交通システム、LNG(液化天然ガス)を始めとするエネルギー関連の案件です。

 

シンガポールでは、1980~1990年代にかけ、多くの発電所が建設され、当社としても電力プラント関係の仕事に関与してきました。現在この国では、電力については十分な発電容量を有しており、新しい発電所の建設は当面見込まれないでしょう。今後は、環境・水関連(大深度地下利用の下水道システムから大規模なゴミ焼却施設、海水淡水化施設など)や、交通・物流関連(MRT/LRT整備、コンテナターミナルのトゥアス移設、チャンギ空港第5ターミナル建設など)のインフラがメインになってくると思います。わが社もこのようなビジネス機会に取り組んでいきたいと考えています。

 

エネルギー関連では、LNGが当社全体としても戦略分野になります。日本のエネルギー需要に応えることを出発点として、ブルネイやマレーシア、インドネシアのプロジェクトに出資し、そこで生産されたLNGを日本に届けてきました。最近では、米国でシェールガス向けのLNGプラントを建設しようという動きがあります。当社はテキサス州のプロジェクトに参画し、そこで生産したLNGを主にアジアへ届けるためのマーケティングを行っているところです。

 

シンガポール政府もLNGの有用性に注目しており、ジュロン島にある大規模な輸入基地を拡張する計画もあります。また、今後シンガポール政府は、LNGを自国の発電燃料として輸入するだけでなく、トレーディングにおける地域ハブを目指しており、さらに船舶燃料として活用することにも関心を示しています。そうした動きの中で、当社としてもシンガポールにおけるLNGビジネスのお役に立ちたいと思っています。

 

―今後のシンガポールの経済について、どのようにご覧になっていますか。

経済の成長率を短期的に見ると、以前に比べ低下しています。背景にあるのが国際経済のスローダウンです。この国の貿易額は、GDP 総額に対して200%と、日本の37%に比べても突出して高いといえます。最大の貿易相手国である中国の経済失速や、欧州や日本といった先進国の経済回復の遅れによる需要の低迷が、この国の経済に直接響いているといえるでしょう。

 

また原油価格の下落による石油・ガス田開発の停滞は、リグやパイプラインの建設を手がけるシンガポール企業の業績にも大きく影響しています。当面は、個人消費や公共事業を中心に、内需を活性化して景気の大崩れを避けようという方針になるのではないかと思います。

 

長期的に見ると、シンガポールはイノベーション分野に力を入れています。この国が持続的に経済を成長させるには、生産性を高めるしかありません。政府も、資金や労働力を量的に拡大する従来のやり方から、イノベーションによる産業の高度化・効率化を目指す方針を示しており、今年に入り「未来経済委員会(Committee on the Future Economy:CFE)」を立ち上げました。当社全体にとっても、ロボティクスや自動化は注目分野です。

 

―今後の日本とシンガポールの関係について、どうあるべきとお考えでしょうか。

基本的に日本とシンガポールは民主主義、自由主義、資本主義の価値観をベースに成り立っており、教育や医療、文化にも力を入れています。両国が関係を深め、協力する分野はますます増えていくでしょう。

 

また両国共通の課題として、少子高齢化への対応が挙げられます。シンガポールでも少子高齢化が進んでおり、将来的には労働力の減少を通じた供給力の下落や、人口の高齢化に伴う社会保障負担の増加などが予想され、こうした状況は日本と同じといえます。労働力の減少に対応するため、高齢者の再雇用年齢の引き上げや、自動化、ロボティクスなどの推進を進めている点も日本と共通しており、互いに協力できる分野だと思います。

 

シンガポールでは高齢者向け医療、また周辺国における高齢者医療への需要を取り込むため、メディカルツーリズムを含めた医療分野が伸びていくでしょう。同時に、それに付随する医薬品、医療機器、保険、介護産業も注目分野といえます。医療ビジネスが有望な分野であるという点でもシンガポールと日本は似ており、互いを参考にできる機会が増えると思っています。

 

―シンガポールにおける人材育成の方向性について教えてください。

三菱商事では、「三綱領」(①所期奉公:物心ともに豊かな社会の実現に向け努力し、環境保護にも貢献する②処事光明:公明正大で品格があり、透明性のある行動を取る③立業貿易:全世界的、宇宙的視野に基づき事業を展開する)という経営理念があり、全社員と共有しています。

 

研修を通じて業務に直結した技能やコンプライアンスへの考え方を共有する一方で、現地の人々の感性への理解を深めて、相互理解を心がけるのが基本的な方針です。そういった姿勢は社内でのコミュニケーションだけでなく、ビジネスを行う上でも大切になります。

314web_mrtakahashi-1髙橋 健司(たかはし けんじ)
1959年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業後、1983年三菱商事入社。主に化学品畑を歩み、クアラルンプールやニューヨークへの赴任などを経て、2011年に化学品グループのアセアン統括として来星。2014年よりシンガポール支店長を務める。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.314(2016年11月21日発行)」に掲載されたものです(取材・写真 : 佐伯 英良)

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