2025年6月2日
米欧が対中戦略で対立 アジア安全保障会議で緊張浮き彫りに
シンガポールで開催された「シャングリラ・ダイアログ」安全保障会談(5月31日〜6月1日)では、従来の米中対立に加え、米国と欧州諸国の対アジア戦略を巡る歪みが明らかになった。米国の国防長官ピーター・ヘグセス氏は、中国を「差し迫った脅威」と断定しつつ、欧州はまず欧州自身の防衛を最優先すべきだと強調したのだ 。
これに対し、欧州側はアジア安全保障への関与を引き続き意義あるものと位置づけて抵抗した。欧州連合のカヤ・カラス高官は、「欧州の安全保障と太平洋の安全保障は相互に連動している」と述べ、地域間の分断を批判。また、ロシアと中国の連携を意識し、「中国を憂慮するならロシアも憂慮すべき」と警鐘を鳴らした 。
フランスのマクロン大統領は、欧州が米中のいずれにも従属しない「第三の道」を標榜。仏領ニューカレドニアやポリネシアなどにおけるフランス軍の展開を引き合いに出し、「欧州・アジア双方との協力によって繁栄と安定を追求すべきだ」と述べた
同時に、英国は航空母艦のシンガポール派遣を含む長期的防衛協力を通じて、南シナ海などにおける航行の自由を支持する姿勢を示している。これは、1969年採択の五ヵ国防衛協定(シンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、英国)に基づくものであり、英豪のAUKUS協定とあわせ、欧州の軍事的関与強化を物語るものでもある 。
加えて、会場ではインドとパキスタンの高官級軍関係者も存在感を放った。両国は昨今の激しい衝突を受け、5月10日停戦したばかりだが、軍制服を着用した双方の代表団はホテル内で“すれ違い”を避けるような距離感を保ち、緊張関係が浮き彫りとなった
この会議は、グローバルな安全保障構造が多極化し、米欧間の連携にも新たな課題が生じつつある現状を映し出す場となった。欧州はアジア防衛への関与を継続する意向を示した一方、米国はそれを自陣の防衛優先とする姿勢に軋轢が生じている。地域の安定をめぐる国際的パワーバランスの変調が鮮明になった意義のある対話であったといえる。