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社会

2025年1月20日

オーチャードロードに眠る森_その歴史と未来

 シンガポールの繁華街、オーチャードロード。その華やかなショッピングモールの裏に、約3つのサッカー場分に匹敵する森が広がる。騒がしい街路から一歩離れたその地には、静かな自然の営みが続いている。この「二次林」は1950年代から手つかずのまま残され、都市計画が進むシンガポールにおいて極めて稀な存在である。
 
 この地はかつて、19世紀中頃に設立された潮州人の公共墓地「泰山亭(Tai Shan Ting)」が広がっていた。貧しい移民労働者にとって、故郷から遠く離れた地で安息を得る貴重な場所であった。しかし、1950年代にはすでに墓地としての利用は終了し、20,000を超える墓が他所へ移された。一部の遺骨は引き取り手が見つからないまま放置され、その後、土地は都市再開発庁(URA)の所有となった。
 
 現在、この50,000㎡の土地の一部は未開発のまま残り、URAのマスタープランでは住宅地として指定されているものの、具体的な開発計画は未定である。専門家によれば、この土地の価値は10億Sドルを超えるとされ、潜在的な財産として保持されている。一方で、この森は豊かな生態系を育み、ピンクネックドグリーンピジョンなどの野鳥が飛び交う姿が見られる。
 
 都市部に突如現れる森は、オーチャードロードの活性化や観光促進のための公園として活用する案も浮上している。シンガポール遺産協会のメンバーや生態学者は、緑地の保存が都市の熱島効果を緩和し、洪水対策にも寄与すると指摘する。一方で、生物多様性や開発価値とのバランスを考慮した慎重な判断が求められている。
 
 この森の未来は未確定であるが、その存在は人々に自然との共生の可能性を問いかけている。次世代に向けた持続可能な都市づくりのシンボルとなるのか、あるいは新たな住宅地へと姿を変えるのか。決断の行方が注目される。

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