2004年10月4日
『アフターダーク』村上春樹
タイトルが示すとおり、深夜0時から夜明けまで一晩に起こる出来事を時間ごとに追う物語。主人公のマリは、外国語大学で中国語を勉強している。モデルをやっているきれいな姉を持ち、ちょっと自分に自信がもてないでいるというありがちな19歳。そんな彼女が一晩にいろいろな人物に出会い会話をするなかで少しだけ成長する。
一方、姉のエリは病気でもないのに2ヵ月も寝続けている。この姉妹は、お互い嫌っているわけではないのに、なぜかうまく分かり合えない。マリ曰く、言葉がうまく届かないという。
人と人が分かり合うのは、時に難しい。まるで、テレビの向こう側の人と話をしているように感じたり、他人の携帯にかかってきた電話を取ってしまったような気分になったりすることもある。しかし逆に、不自由な外国語で話しているのに心が通い合うような事もあるのだ。
この小説は「私たち」という視点で展開される。読者は作者と同じ目線に立たされ、作品を通じてこの世界をのぞくカメラとなる。まるで防犯カメラで覗いているかのように。他人に観察される事無く生きていることはできない。逃げる事もできない。そんな怖さも感じられる。
講談社
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.014(2004年10月04日発行)」に掲載されたものです。
文=親松