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紀伊国屋「おすすめの1冊」

2004年10月11日

『ミッドナイト・エクスプレス』沢木耕太郎

photo-6時々、もっと早く出会っていればと思うことがある。

出会った頃はスポーツ・ノンフィクションにハマっていた。だから、「一瞬の夏」が最初に読んだ沢木耕太郎の作品だった。それ以降は彼の作品が気になり、文字通り貪るように読んだのが25歳の終りから26歳の始めにかけてだったと思う。そして私は「深夜特急」を読んだ。

皆で行けばいいのに、わざわざ一人旅をする者は酔狂だと思っていた。特に外国へ一人で行って何が楽しいのか理解できなかった。ところが、「深夜特急」を読んで、子供の頃読んだ冒険小説を思い出すと共に、まだ見ぬ世界に心馳せている自分に気付いた。読んだ時期が、著者がインドのデリーからロンドンまで乗り合いバスで旅に出たのと同じ26歳だったというのが影響したのだろう。べつにバックパッカーみたいな旅がしたいわけではなく、ただ日本の外へ一人旅がしたくなった。理由は今でもわからないが、読まなければそうすることはなかっただろう。

もっと早く出会っていればと思う。そうすれば、無為に過ごした時間を有効に使えたのに。思うだけでは意味がないので、読後の翌年から来星するまでの4年間だけ一人旅にでかけた。東アジアと中東だけにしか行かなかったけど、それは「深夜特急」の影響。ただ、ここにいる今も一人旅の延長という気がしなくもない。その「深夜特急」が、著者の自選傑作集に第8巻「ミッドナイト・エクスプレス」として遂に登場する。単行本で3巻、文庫で6巻もあるので買い控えていた人はこの機会に買わざるを得ないだろう。これ一冊で全巻を網羅できるのだから。

 

文芸春秋

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.015(2004年10月11日発行)」に掲載されたものです。
文=茂見

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