シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『イン・ザ・プール』 奥田英朗

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2005年4月25日

『イン・ザ・プール』 奥田英朗

photo-13水泳中毒、ケータイ中毒、持続勃起症…。変な病気に悩む者たちは精神科医伊良部のもとを訪れるが、その医者である伊良部が変人で…というのが本書『イン・ザ・プール』。奥田英朗の直木賞受賞作品であり、映画化とドラマ化が決まっている『空中ブランコ』は本作の続編にあたる。

本書は『空中ブランコ』と同様に「爆笑必至」とうたっており、実際にそう感想を言う人は多い。確かに面白い。しかし読み進む内に面白さの裏にある怖さを感じる。身につまされるというか「これは自分の事ではないか?」と思えて笑えなくなるのだ。特にケータイ中毒の回は自分が今高校生だったらこうなっていただろうと憂鬱になった。誰もが高校生の頃は、この章の主人公のように自意識過剰だったはずだから(筆者だけか?)。しかし、そんな暗くなる気持ちも全て伊良部の奇行が吹き飛ばしてくれる。彼の行動はまるで平成の無責任男と言わんばかりのノリ。だが、それがいい。この男がいるおかげで、各章の主人公も読者も最後はさわやかな気持ちになれる。そこの所は良く出来ている。

最後に内容とは関係ないが、表紙の装丁がニルヴァーナ『ネバー・マインド』のジャケット風なのも洒落ていてマルだ。

 

文藝春秋

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.041(2005年04月25日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール本店 古矢

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