シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP「ワイルド・スワン」上・中・下巻/張戎

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2007年5月21日

「ワイルド・スワン」上・中・下巻/張戎

photo-8毛沢東が皇帝のように君臨した時代を生きた二人が執筆した本がある。それらを比較しながら読んでみた。

一人は張戎(ユン・チアン)。中国共産党上級幹部の娘で、後に「マオ」を執筆する女性。もう一人は建国と同時に期待に胸を膨らませて故国に戻ってきた李志綏(リ・チスイ)、毛沢東の主治医。

前者の少女時代、毛は絶対で、その言動は是非の対象外だった。幼い頃から毛を神格化された教育をうけて育った少女は、文革で父母が迫害を受けるのを見て、次第にその権力者に対して疑いの目を持ち始める。

後者は29歳で帰国し、その数年後から毛に仕えるようになった医師。当初は毛沢東に心服していたものの、その乱れた生活に接し、やがて尊敬の念を失っていく。毛の信頼を得て毛が死ぬまでその主治医の地位にいることができたが、最後まで毛に翻弄されながら時代を生き抜いてきた。

彼がいなければ、中華人民共和国そのものが存在しなかったかもしれないが、彼がいたからこそ、大躍進や文化大革命のような未曾有の人災が中国を見舞い、長く経済が低迷してきたのかもしれない。

 

講談社文庫

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.098(2007年05月21日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 茂見

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP「ワイルド・スワン」上・中・下巻/張戎