2011年11月21日
『剣客太平記』岡本さとる
現在売出し中の時代小説家である岡本さとるをご存知だろうか。2010年に「取次屋栄三」で小説家デビュー。この著者は「水戸黄門」「必殺仕事人」の脚本を手掛け、現在も舞台作品にて脚本家・演出家としても活躍している。
今回紹介する「剣客太平記」は新シリーズ第一弾。亡き父の剣術の才能を受け継ぐ竜蔵は、道場を構えたものの門弟は一人もおらず、喧嘩の仲裁で糊口をしのぐ日々。
竜蔵の剛健ながら人情味あふれる人柄に、不器用な優しさに、心打たれること間違いない。著者の巧みな物語構成・展開は読む者のツボをおさえており、『お見事』と賞する他ないだろう。
三篇収録されている中で特に「夫婦敵討ち」における人物描写のうまさが冴えている。殺された兄の敵を討ちたいという男に、ひょんなことから剣術指南をすることになる。その中で描かれる愚直な男の想いにひきこまれた。
今後の展開が楽しみな作品がまた一つできたことを嬉しく思える。お見事な一冊!
角川春樹事務所/ISBN:9784758435901
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.201(2011年11月21日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 村山