シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『覆面作家』折原一

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2013年4月1日

『覆面作家』折原一

photo-1 長い間品切れとなっていた折原一の初期作品の傑作が光文社文庫より復刊された。

 個人的には待望の復刊である。10年以上たった今でも二転三転する展開にめくるページが止まらなくなり、ラストで明かされる結末の衝撃に叙述トリックの虜になったことを思い出す。折原一は作品構成そのものがトリックになっている「叙述トリック」を得意とする作家で「沈黙の教室」で第48回日本推理作家協会賞を受賞している実力派である。

 本書は、行方不明だった推理作家西田操が帰ってきたところから物語は始まる。7年間の失踪後、長編小説の執筆に取り掛かるが、周囲では怪現象が続発する。

 西田の視点(現実)と劇中小説(虚構)が交互に並ぶ構成がとられ、現実と小説が交じり合い新たな局面を描き出す流れには舌を巻く。後半の怒涛の展開に、次々に明かされる真実に、読者はきっと夢中になることだろう。

 数多くの作家の手によって叙述トリックの名作は書かれてはいるが、「叙述トリックといえば折原一」といっても過言ではない。巧みなどんでん返しを是非味わっていただきたい。

 

光文社/ISBN:9784334765354

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.231(2013年04月01日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 村山

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