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2006年11月6日

ビボシティーのクリエイティブ空間を回遊する

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毎日のように全面広告が紙面を飾る。ビボシティーの魅力は、その広大な敷地面積でも、店舗数でも莫大な建設費用でもなく、訪れる人々にこれまでにないユニークな経験をしてもらうために、これまでのショッピングモールにはない発想が織り込まれているということ。それもそのはず、ビボシティーは、設計デザインを伊東豊雄氏が、パブリックアートのキュレーターは南條史生氏が務めるという、世界的に活躍する日本のクリエイティブ産業の担い手達の英知と、ワールドクラスの実現を切望するシンガポールのこだわりの昇華にあるといっても過言ではないからだ。

 

今シンガポールで最も話題のビボシティー、その建築とアートを訪ねてみよう。

 

波打つ屋根、オーガニック(有機)曲線のくつろぎ感を味わう。

p02ビボシティーの外側は、波をモチーフにした作りで、海沿いに建つのに相応しいライン。反対のセントーサ島から眺めても、ケーブルカーに乗って上から見下ろしても、風景にすっぽりと溶け込んでいる様子が分かる。

 

3階にあたる屋上の広大なテラスは、板張りのデッキの上を海風が吹抜け、向いのセントーサ島を眺めながらのんびりと時間をすごせる。オリンピックサイズのプールにして4個分と言われる浅瀬に水がはられ、所々に点在するビボパンチのポップなパブリックアートに誘われるまま、足を浸すことができる。(子供をつれていくなら着替え用の服は必携)屋外劇場もあり、今後は各種イベントなどが開催される予定。夕方日の暮れる頃に訪れるのが理想的。

 

屋上がくりぬかれた部分から2階を見下ろすと、広々としたプレイグラウンドがあるのがわかる。シンプルな遊具にキュートなビボパンチ、水と戯れることのできる噴水もあり、子供達にも大満足なビボシティーである。

 

p03目的をもって駆け込むショッピングというより、いつもより歩みをスローダウンしてウインドウショッピングを楽しむ方がしっくりくるアーケード内。天井に緑のリボン状の装飾が施されているが、これが建物の真ん中でスパイラルになって1階の床に落ちている。まるでジャックと豆の木を連想させるが、これが横長く伸びたビボシティーの内側を束ねる役割を果たしているという。豆の木のつるが3階のテラスまで伸びだし、白い屋根となって歩く人を屋上へと導くしかけもある。2階の天井まで広く吹き抜けになっていることで、空間に圧迫感がなく、時折天井に自然光の入る窓があったりもする。まさにオーガニック(有機)な空間、中も外も妥協のない建築デザインがとても新鮮だ。また、海に面したゾーンには、眺めの良いレストランが個性を競うように並んでいる。充実のフードコートもあるので食の心配もご無用。

 

伊東豊雄
建築家 伊東豊雄建築設計事務所代表

p041941年京城市(現ソウル)生まれ。長野県下諏訪町で育つ。

 

東京大学工学部建築学科卒。菊竹清順建築設計事務所を経て、1971年にアーバンロボット(URBOT)設立。1979年伊東豊雄建築設計事務所に改称。

 

建物のラインがあたかも動き出すかのように見える。その曲線によって内と外がゆるやかに一体化した空間。新たな建築概念とテクノロジーの進化を遂げて、これまで不可能とされてきた建築が近年次々と実現されるようになった。つまり、コンピュータテクノロジーを駆使して複雑な構造解析をしていくことで、デザインを顕在化させているのだ。伊東豊雄氏は、こうした現代建築を牽引する一人として、日本国内はもちろん、世界各国でプロジェクトを進行させている。

 

伊東豊雄の名が国際的に知られるきっかけとなった、せんだいメディアテーク(2001年)は、地下から屋上まで貫通する傾きを持った13本の「チューブ」によって支えられた建築で、その画期的な理念と構造によって建築界に衝撃を与えた。

 

より自然の、複雑な、しかし豊かな秩序を内含する「エマージング・グリッド(Emerging Grid=生成するグリッド)」という概念を提唱し、「活き活きとした生命力に溢れた力強い建築」を創造し続けている。これまでも日本建築学会賞、国際建築アカデミー(IAA)アカデミアン賞、日本芸術院賞、ベネチアビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会ゴールドメダル賞など国内外でさまざまな建築デザインにおける権威ある各賞を受賞し、日本を代表する世界の建築家としての地位をゆるぎないものにした。代表作の一部に、八代市立博物館「森ミュージアム」(1994年)、みなとみらい線元町・中華街駅(2003年)、トッズ表参道ビル(2004年)などがある。現在、台湾にて高雄スタジアム、台中メトロポリタンオペラハウスのプロジェクトが進行中。

 

パブリックアートの世界にようこそ。

Snowman & Snowflakes
インゲス イデー Inges Idee(ドイツ)

p05インゲスのアイデアという名前のアーティスト4人グループによる作品。それぞれがアーティストなのだが、パブリックアートになると一同集結して取り組むというグループ。波状のモチーフの建物の壁面に呼応するように立つ、高さ13メートルのスレンダーな雪だるま。「雪だるまは、ヨーロッパでは子供が初めてつくるスカルプチャーなんです。誰にも親近感のある具象を僕らなりにシンガポール仕様にデザインしました。熱帯だからスリムになったというか。」と来星したメンバーの一人、ジョージが笑う。スノーマンが見つめる先を思わず探してしまう。また、スノ―マンの帽子の後方にある屋根の上にそっと留っている雪の結晶、スノーフレークもお見逃しなく。ミクロなものを拡大した緻密な曲線に見とれてします。

Vivo Punch
マイケル・チャン Michael Cheung a.k.a. Punchman(香港)

p06マイケル・チャン氏は、外資系の広告代理店でアーティスティックディレクターを務めたこともあり、香港のクリエイティブ界での一線で活躍している。

ビボパンチは、ビボシティー内に全部で18体ある。その明るい色づかい、表情、親しみやすいポーズと曲線が建物のアクセントとなって訪れる人を楽しく迎える。もともとパンチマンとしてマイケルが作り上げたキャラクターだったのが、ビボパンチをして生まれ変わり、ビボシティーのイメージキャラクターにもなっている。2階にあるプレイグランドには、実際に座ったり、シャボン玉を吹き出すビボパンチがあり、子供達にも人気だ。「子供の生活に近い場にアートがあるというのが大事。そうすることで、アート、デザインといったものを肌で感じることができる大人になるというわけ。」とマイケル氏は語った。

GoGo
マーク・ルイロック Marc Ruygrok(オランダ)

p07パブリックアートを主に手がけるアーティストで、字体をモチーフにした作品を多く世に送り出してきた。マーク氏の作品はハーバーフロントセンターとビボシティーを繋ぐ建物の間にある。車寄せと駐車場への道路がぐるりとロケットを取り巻き、確かに宇宙基地や飛行場を連想させるセッティング。「初めてこの場所を見たとき、有機的で明るいビボシティーの建物と対照的にグレーで冷たい印象だった。雰囲気をうんと変えてみたくて、ロケットのコンセプトに行き着きました。これに乗って誰かが宇宙からやってくる、又は宇宙に帰って行くような気分が味わえたら。」とマーク氏。どこかノスタルジックな雰囲気のデザインと色が世代を超えて受け入れられている。

Flower Tree
チェジョンフア Choi Jeong-Hwa(韓国)

p08チェジョンフア氏は、韓国を代表するポップ・アーティストとして、カラフルで人目を引く大作を多数発表。2000年以降、霧島アートの森に作品を提供したり、横浜トリエンナーレにも参加しており日本でも馴染みのあるアーティスト。お得意のフラワーツリーだが、シンガポールにちなんで蘭の花が取り込まれている。

「いいパブリックアートというのは、横に並んで写真を撮りなくなるようなものでなくては。」とチェ氏は語る。連日フラワーツリーの前でカメラを構える人が絶えないのはそのポリシーが叶った証拠だ。

There
ヘンク・フィッシュ Henk Visch (オランダ)

p09ヘンク・フィッシュ氏は、現代彫刻家として知られ、日本でも展覧会などを開催している。一見シンプルな造形に見えて、人間の様々な精神や意思を形象化した彼の作品には独特の存在感がある。ビボシティーのセッティングの中にあっても、いかにもフィッシュらしい作品を制作したと言える。果たしてこの鉄棒にぶら下がった人物は、浅瀬のプールの上で何をしてくれるのだろう、動くのか、動かないのかわからない。12分、見つめてみることにしよう。

 

「Aphrodite’s Roses」
吉水浩 Hiroshi Yoshimizu(日本)

p10吉水浩氏は、東京芸術大学を卒業後、イタリア,ニューヨーク等での経験を経ながら、国際展への出展や国内外で多数のパブリックアートのプロジェクトをこなす。その場所、土地、ストーリーからインスピレーションを受けたパブリックアートを作る吉水氏のビボシティーでの作品は、アフロディーテの薔薇というベンチにもなるロマンチックなもの。300mもある海沿いのボードウォークにロマンスを誘う4つの薔薇は、その鮮やかな色も見事に風景にマッチして美しい。

 

 

ビボシティー概要

延面積が東京ドームの約2倍、9万平方メートルはあるシンガポールで最大のショッピングモールがこのビボシティー。ライフスタイルデスティネーションと銘打つだけあって、これまでのショッピングモールとは一線を画している。デベロッパーのメイプルツリーインベストメントが2億1,800万シンガポールドル(約218億円)という総工費をかけて完成させ、オープンしたのが今年の10月7日。ハーバーフロント駅に直結しており、2,000台以上を収容できる駐車場もある。

12月を目処にモノレールのセントーサ・エクスプレスも操業する予定。

1 HarbourFront Walk 098585

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.085(2006年11月06日発行)」に掲載されたものです。
文= 桑島千春

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