シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOPキーボード入力 自己流で遅い日本人

2022年6月30日

キーボード入力 自己流で遅い日本人

米国に留学 学校で日本人ひとり

今から30年前のことだ。当時高校生だった筆者は1991年から1992年にかけて1年間、アメリカノースカロライナ州のRaleighという州都の公立高校に米国政府の奨学金を得て留学した。日本の高校生の海外留学はまだ珍しかった時代だ。在校生1000人以上の大きな高校で日本人はただ一人だった。当時は英語を話すことも十分にできず、最初の3か月は学校の授業が数学以外はほとんど理解出来なくてつらい日々を過ごしたけれど、いま振り返ると、かけがえのない特別な1年を過ごしたと胸を張れる。
 

日本で「ブラインドタッチ」は少数派

日本の義務教育や高校では当時から今にいたっても、タイピングの授業はほとんどおこなわれていない。そのためだろう。ビジネスでパソコンが不可欠となった現在、日本人で手元を見ずにキーボードを打てるブラインドタッチができる人は少数派だ。ある調査によるとブラインドタッチができる人は30%前後と言われる。10代、20代ではスマートフォンのフリック入力は得意でも、パソコンのキーボード入力は苦手な人が多いというのが筆者の実感だ。ある程度タイピングのスピードが速い人でも「自己流」だから、「P」や「Q」を人差し指で打ったりしている。
 

「入力苦手」パスワード選びにも反映

そんな日本人のデジタル事情を反映する興味深い調査がある。パソコンを起動するときの初期動作やオンライン決済する際などに、どんなパスワードを使用しているかを示した「インフォグラフィック:国別の一般的なパスワード」だ。
 
それによると日本人の特徴として「名前などの意味を持つコードを使用するよりも、入力しやすいパスワードを選ぶことが圧倒的に多い」というのだ。トップ10には「12345678」や「asdfghjk」などキーボードの順番に片手で打ち込めるものを使用している人が多い。イタリアで4番目に人気のパスワード、サッカーチーム名の” juventus”(ユベントス)などとは対照的だ。筆者の推測だが、「日本人の意味を持たないパスワード選択」は、キーボード全体を行ったり来たりする意味を持つ言葉を入力する手間と時間を回避するものだ。そこには、苦手な入力をなるべく機械的に簡便に済ませたい。素早く終わらせたいという心理が垣間見える。しかも、日本人が選択している「12345678」や「asdfghjk」などの単純で機械的なパスワードは極めて脆弱とされる。何者かにハッキングされやすい最も悪いパスワードの代表例とされている。
 

 

留学の意外な果実

留学経験で得られたことは何だったか。基本的な英語をマスターできたこと。異文化に暮らして多様性や自分とは違う価値観に肌で触れたこと。ホストファミリーや友人と今でもSNSでつながり交流できていること。アメリカで運転免許を取ったおかげで左右どちらのハンドルの自動車でも抵抗なく、海外の旅先で運転できること。挙げるときりがないが、実は私自身も当時は気づかなかった意外なメリットがもう一つある。それは「タイピング」の授業で習得したブラインドタッチだ。
 

ITソフトウェア開発では後進国

 自動車やロボット、家電製品などハードウェアの製造分野では国際競争力を保っている日本。しかし、ソフトウェア開発やIT分野では欧米に遅れをとっている。ソフトウェアの分野のプログラミング言語が「英語」であるハンディキャップに加えて、その言語をスピード感を持って入力したり、使いこなす人材が育っていない教育的、文化的背景がその遅れの遠因にある。それが筆者の仮説である。
 

時は金なり

1991年当時。パソコンはまだ普及していない。授業で使ったのはタイプライターだった。だが、アメリカでその授業を受けたおかげでキーボードを見ずに話すのとほぼ同じスピードでタイプ出来る。まるでピアノを弾くようにすらすら打てるから、圧倒的に効率がいい。時は金なりだ。日々のメールのやりとりにしても、記事や企画書を書くにしても、この30年間、私はどれだけブラインドタッチに助けられ、時間を節約できたことだろう。
 

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOPキーボード入力 自己流で遅い日本人