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2020年8月13日

データサイエンス学部…文理分断からの脱却②

シンガポールと日本の教育事情:日本編

データサイエンティストを育成する専門学部となるデータサイエンス学部

 社会はIoT(Internet of Things)の活用により、急速にすべてのモノと情報がデバイスによってつながり、「ビッグデータによって動く社会」が到来しています。あらゆる商品の売れ行き、選挙における有権者の投票行動のデータ、人口動態のデータ、世界の気候変動のデータ、医療関連の各種データ、SNSの何気ないつぶやきまで、日々膨大で多様な種類のデータが生まれ蓄積されています。
 
 データサイエンスとは、社会や自然界に溢れているこうしたデータに意味付けをし、《価値》を引き出す新しい総合科学です。
 

日本はデータサイエンスの専門家が絶対的に不足している

 日本においては、「第4次産業革命」が到来、産業構造が急速に変化しているにもかかわらず、経験豊かで優秀なデータサイエンスの専門家が絶対的に不足しています。データサイエンスのプロを育成するには、膨大なデータの中から新たな社会的な価値を創造できる人材を育成する専門のコース(=データサイエンス学科)を創設することが必須となります。
 
 2017年以降、遅ればせながら国公立大を中心にデータサイエンスの専門学部が創設され始めました。ビジネス、政治、医療、教育、行政、政治、都市交通、環境問題等あらゆる事象を研究対象にするデータサイエンスには、数学・統計学を活用したデータ処理能力、データ分析力といった「理系的」スキルのみならず、価値創造に活かすために、マネジメント、マーケティングなどのいわゆる「文系的」なスキル・知見と様々な分析経験が必須となってきます。
 

横浜市立大学データサイエンス学部・データサイエンス学科

 2018年4月、横浜市立大学(横浜市金沢区)にデータサイエンスの専門学部が誕生しました。文系分野にも興味を持つ、理系志望の学生への人気が急上昇しています。

データサイエンス学科のカリキュラム

 横浜市大大学のデータサイエンス系学部には、データサイエンティストとして必須の4つの異なる分野の科目群が用意され、それぞれの科目群に必修科目が配置されています。
 
 1.データアナリシス系科目:数理統計学、線形代数学、非線形代数学等データサイエンスの基礎ツールである数学と応用・分析の手法 等
 2.データエンジニアリング系科目:情報学、機械学習(AO)、アルゴリズム論、プログラミング演習 等
 3.価値創造科目(社会科学系科目):経営学・経済学・社会学・行動科学系科目の学習と価値創造の実例紹介 等
 4.実践的科目:データが生まれる現場でPBL(Project-Based Learning)、課題解決型学習を行い、実践的な演習を行います。
 
 データサイエンス学科では、数理統計学・アルゴリズム(※1)を基礎とし、各自の興味・関心に応じ、経済・経営学、サイエンス、医療統計学、政治学、行動科学等、将来データサイエンティストとして活躍するために必要な各専門領域の基本的な知識を修得します。
 
 3年生から始まる「専門領域演習」を通じた現場重視のPBLが組み込まれ、コミュニケーション能力や実践力を習得し、課題発見力・課題解決力を獲得できるカリキュラム構造となっています。 データサイエンスに必要なのは、膨大なデータの中に埋もれた新しい価値を見つけ出し、世の中を変えることが出来る能力。そこに求められるのは、文系・理系の枠組みを超えた、知力と分析力、発想力です。
 
 (※1)アルゴリズム:効率の良いプログラムを作成するために用意された手順や計算方法のこと。
 
 参考:横浜市立大学データサイエンス学科カリキュラム

<活躍が期待される分野・職種>

 今後、データサイエンスの知識豊富な人材が、さまざまな分野に数多く雇用され、中核管理職として登用されるようになるでしょう。
 
 ●ビジネス分野:企業情報ビッグデータを解析し、経済動向を予測するマーケティング担当者、マーケティング管理責任者。
 ●技術分野:ビッグデータを解析し、ビジネス戦略や課題解決法を立案するエンジニア
 ●その他の専門分野:データ分析技術を活用するコンサルタント、製品開発担当者、政府・地方公共団体の政策立案担当者、経営イノベーション担当および管理責任者、大学・企業・シンクタンク等の研究者、プロジェクト管理責任者など。

 

国公立大学データサイエンス系の専門学部が続々と新設・創設計画中

 ここ数年、データサイエンス系の学部創設ラッシュの様相を呈しています。データサイエンスの分野では、公的データを自由に使ったシミュレーションや社会的実践が可能な国公立大学に、大きなアドバンテージがあるでしょう。以下に国公立大学のデータサイエンス系の専門学部を紹介して今回は終わりとします。
 
 ○滋賀大学データサイエンス学部(2017年4月創設)
 
 ○横浜市立大学データサイエンス学部データサイエンス学科(2018年4月創設) 
 
 ○広島大学情報科学部(2018年4月創設)
 
 ○兵庫県立大学社会情報科学部社会情報科学科(2021年4月創設予定)
 
 ❍一橋大学商学部データ・サイエンス・プログラム(2021年4月開設予定)
  このプログラムは、その後「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科(仮称)」に独立予定
 


 
著:後藤敏夫(ごとう・としお)
WCEグループCEO
 
World Creative Education Pte Ltd
グローバル教育コンサルタント
Orbit Academic Centre グローバル型進学教室

 
シンガポール在住。1990年に海外型進学塾「オービットアカデミックセンター」を香港にて設立。日本の学校への進学指導だけでなく、国際バカロレア(IB)などの国際カリキュラムを履修した生徒たちの海外大学進学や国際併願を数多く指導する。30年間一貫して、中学・高等学校や大学のグローバル化を積極的に支援。グローバル教育の最新情報や今後の教育の方向を発信している。

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