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シンガポール不動産「耳寄り情報」

2016年7月18日

ご注意下さい!日本とは大きく異なる市場・取引慣行 (その1)

シンガポールはアジアのビジネス・ハブだけあって、日本語を話せる人も少なくなく、時差もわずか1時間。しかし、やはりここは外国です。「日本と同じ」という錯覚に陥ると、あとで後悔することに……。転ばぬ先の杖として、不動産取引においてベテラン・エージェントの起用が大事だと言われる理由もそこにあります。

 

1.家主の立場が圧倒的に強い:
日本では、いわゆる戦後法制の一環である借地借家法により、借手の立場が圧倒的に強く、かたや家主の権利は厳しく制限されています。たとえば借手は、理由の如何を問わず、いつでも1ヵ月前に通知すれば賃貸契約を一方的に解除できますが、当地では契約満期まで解約できません。契約時に転勤解約特約が入っている場合でも、その条件に該当する場合のみ中途解約が可能となります。

 

2.住宅の家主は、大半が個人所有者:
当地のデベロッパーは、サービスアパートを除いて住宅を長期保有せず、全て分譲しています。その結果、賃貸する場合の家主のほぼ全てが個人所有者となり、さらには外国籍の不在家主も少なくありません。その結果、同一のコンドミニアムであっても、部屋ごとに家主が異なり、内装や家具の状況もバラバラ、賃料や賃貸についての方針もまちまちなので、家を借りる際には内見や情報収集が大変重要です。見落としがちなのが、家主のバックグラウンド。個人情報保護法などの制限で、得られる情報は限定的ですが、事前に聞きだしましょう。変な家主につかまると、2年間苦労する羽目にもなりかねません。
3.口約束は駄目:
日本とは違い、Contract is Contractですべては契約書に準拠し、契約も詳細にわたります。成文法主義の日本とは異なり、当地には慣習法(判例法)もあります。一人一人考え方も異なる個人家主との取引で、契約書をしっかり読むことは必須です。

 

4.間取り図を提供しない:
デベロッパーによる新築物件の分譲を除いては、売買でも賃貸でも「間取り図」を提供する慣行がなく、物件の表記は「寝室数」と「専有面積」で表示するという大雑把なものです。例えば「3 Bedroom approx. 1250 square feet」とあり、説明として「D10 Aspen Heights」と、地区(D=District)やコンドミニアムの名称などが付記されます。
実は、この表示法は英国や豪州でも同じです。シンガポールは、元々英国の植民地だったため、多くの法律や制度、取引慣行が英国のものを踏襲しています。英国では、築百年近くの物件もざら。「間取り図」が残っているわけもありません。また、英国の法律では、物件についての説明(例えば「間取り図」の中身など)が事実と異なっている(=誤りがある)と、相手側からの解約事由になる点も、間取り図を開示しない理由の一つとも言われています。

 

5.事件があった場所と後で知っても解約できない:
築年数の長い建物も多い英国で、その物件でかつてどんな事があったかを正確に把握するのはほぼ不可能。入居後に、そこで自殺や殺人事件などがあったと分かっても、買主や借主が契約を解除することはできません。シンガポールも同様です。

文=木村登志郎(パシフィック不動産株式会社CEO、シンガポール宅建士)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.306(2016年7月18日発行)」に掲載されたものです。

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