シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP第2回 シンガポールの早期教育事情とお国柄

シンガポール教育談義

2016年7月5日

第2回 シンガポールの早期教育事情とお国柄

少ない国民数と、実用重視のお国柄
早い時期から子供に勉強をさせようとする家庭がシンガポールに多いのはなぜでしょうか。その理由の1つに、シンガポールは小さな国であるがゆえ、子供の将来に対する不安を感じやすい環境にあることが挙げられます。日本では人口が1億人を超え、スポーツにも強い土壌があります。プロ野球選手やプロサッカー選手として世界で活躍するチャンスもあり、将来の選択肢は学力だけでは決まりません。

 

シンガポールの場合、人口は550万人程度です。教育を強く重視し、実用重視なお国柄であるシンガポールではスポーツもあまり盛んではなく、給料の良い仕事に就くためには、シンガポールの大学に入学し、Law(法律)、Medicine(医学)、Finance(金融)、Engineering(工学)、Accounting(経理)などの学位を取るのが良いと考えられているようです。国立大学を数えるとシンガポールには5校しか存在せず、生徒全体の3割しかこれらの大学に進学できないとなると、保護者が早くから子供の進路を心配するのも仕方がないことかもしれません。

 

少ない数の国民で国を繁栄させていくために、教育を強く信じて力を入れる様子が見られるほか、競争に負けられない、負けたくないという精神も、元々高い教育水準をさらに引き上げている部分があり、教育を重視するシンガポールの国民性として強く表れているように感じます。

 

名門小学校が人気な理由
小学校の卒業試験PSLE(Primary School Leasing Examination)で高いスコアを狙うため、Primary School(小学校に相当)とSecondary School(中学校に相当)がAffiliate Schools(付属校)として繋がっているブランドスクール(名門校)への入学を目指すのは、シンガポールの大学進学を目指すためのモデルケースです。そういった名門校では、将来有名大学に進学するなどの成功を得るために勉強をするのが当然という風潮があり、必然的にPSLEのスコアが高くなる環境が整っています。また、中には該当しない学校もありますが、付属校として中学校と繋がっていることで、PSLEのスコアが多少低くても付属中学校への入学が可能な学校があることも人気が高い理由です。

 

しかし近年はNeighborhood Schoolと呼ばれる地元公立校のレベルも上がってきており、通いやすい地元の学校へ入学を決める保護者も増えてきていますし、シンガポール教育省(MOE)は、どの学校もレベルは同等と公言しており、上記のような付属校への特別待遇もMOEからは圧力をかけられ始めているといわれています。

 

ただ、少しでも良い中学への進学のチャンスを、という保護者の希望は根強く、まだまだ名門校の人気は続いていくでしょう。

 

Singapore-Cambridge GCE A Level(高校修了資格)以外の選択肢
小学校卒業後に公立校ではなくローカルインターナショナルスクールへの進学を選んだ理由に出てくる言葉として必ずといっていいほど聞かれるのが「公立校はストレスが強いから」という言葉です。中にはローカルインターナショナルスクールに入学して学校生活が充実した、という生徒もいます。ホワ・チョン・インターナショナル(Hwa Chong International)の入学事務局長マイク・ラム氏によると、シンガポール人生徒の、ローカルインターナショナルスクール入学という選択肢への認知が広がり、公立校と比べて学費は高いものの、シンガポールの経済成長に伴い、支払える余裕のある家庭も増えたといいます。また、特に欧米系の大学への進学を視野に入れている家庭では、シンガポールの教育の基盤となったイギリスのGCE A-Level(高校修了資格)よりも難解といわれるシンガポールのGCE A-Levelの取得を目指すより、総合的に学力を評価し、大学の勉強に近いといわれる国際バカロレア(IBDP)資格を子供に取得させようと考える家庭も増えつつあるようです。

 

PSLEを経て、少しでもレベルの高い中学へ入学し、A-Levelで良い点数を取り、シンガポールの大学を目指す、という流れが定着し、早期教育が加速し一般的となったシンガポール。MOEは近年、公立校全校における教育水準の一定化を目指しており、またシンガポール人のローカルインターナショナルスクールへの入学を許可するなど、この激しい教育競争を少しでも抑えようとしています。しかし、公立校と比べて自由度の高いローカルインターナショナルスクールを希望し、子供を通わせている保護者からも、もっと子供に勉強させてほしいという声があがることもあり、シンガポールに教育競争が深く根付いていることを感じさせられます。

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シンガポールの名門伝統校で、PrimaryからJunior College(日本の高校に相当)、インターナショナルスクールまでを擁するACSグループのACS Primary校舎

 

著者プロフィール    岡部 優子(おかべ ゆうこ)
早稲田大学大学院卒。JPモルガン証券を経て、当地学校法人と日本人家庭の架け橋の役目を果たしたいとCulture Connectionを設立。シンガポール留学をメジャーにするのを目標に、人生の中でも大きな決断となる海外の学校選びの仕事に自覚と責任を持ち、信頼を大事にしながらサポートに励んでいる。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX vol.305(2016年07月04日発行)」に掲載されたものです。

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