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シンガポール教育談義

2016年6月6日

第1回 シンガポールでの 『ビリギャル』物語は非現実的

シンガポールで、就学前の時期から勉強している子供が多いと感じるかもしれません。その理由として真っ先にあげられるのが、小学校6年生から中学校へ上がる際の試験が、その子の人生を決定しかねないという事情です。試験は、小学校の卒業試験PSLE(Primary School Leaving Examination)と、PSLEの結果を待たずに進学先を決められる、各中学校への直接入試DSA(Direct School Admission)
があります。PSLEで良い点を目指すために有名な小学校にいれたいと、子供の勉強を開始させる時期が早まっています。

 

PSLEを取得する生徒は97.8%ですが、6校ある国立大学、2校の国立アートスクールまで進学できる生徒の割合は3割にまで下がります。そして、この3割の可能性が、中学校入学時点である程度見通しが立ってしまうのがシンガポールの教育システムです。そのため、早い時期からどんどん勉強させるというシステムが定着してしまったようです。
よってシンガポールでは、日本で映画化され話題になった「学年ビリの女子高生が突然勉強にやる気を出し、結果、慶應義塾大学に入学する」という『ビリギャル』物語は非現実的なのです。

 

中学校から決定してしまう、将来の進路
どの中学校(Secondary School)に行けるかが大切なのはもちろんですが、入学後も学内では、エクスプレス(Express)、ノーマル・アカデミック(Normal(Academic))、ノーマル・テクニカル(Normal(Technical))の3つのコースに分かれ、卒業までかかる年数も、各自の理解度、進捗により、4年、5年の場合と違いが出てきます。

 

主に大学入学を目指すエクスプレスと、職業訓練のための専門学校という意味合いが強いITE(Institute of Technology Education)へ進学する生徒が多いテクニカルでは、学習内容が大きく異なります。テクニカルに行く生徒は、職業へ直接結びつく看護(Nursing)やサービス(Hospitality)などについて学び、早い時期から実務に向けた勉強をします。

 

一方、エクスプレスの中でもインデペンデント・スクール(Independent School)と呼ばれるシンガポールでも有数の進学校である中高一貫校で、中学卒業試験にあたるGCE O-Levelが免除となるIP(Integrated Programme)というプログラムを提供している学校では、アカデミックに強い生徒のさらなる可能性を引き出すため、負荷を強めた高度な教育を行います。

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シンガポールの公立中学校(Government School)の外観。写真はNorthland Secondary School。

 

シンガポールの教育水準が高いと言われる所以
シンガポールでは、イギリス式をベースにした教育課程を用いますが、この形式が暗記型、詰め込み型、と批判されがちなのも事実です。詰め込みだけでは実力がつかない、というイメージを払拭するためとも言われていますが、シンガポール教育省(MOE)は2004年、ACSインデペンデント(ACS Independent、日本の中学校・高等学校にあたる)など数校を対象に、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)の導入を決定しました。
ACSインデペンデントは、導入してから10年ほどですが、IBのプログラムで毎年世界トップ3とも言われる成績を残すことに成功しています。2015年のIBDPのスコアは45点満点中、平均41.3点とシンガポール国内でも飛び抜けた成績を残し、シンガポール教育が論理的な思考力や表現力などを含めたプログラムでも通用するということを証明した形になっています。

 

シンガポールでも有数の進学校であるラッフルズ・インスティテューション(Raffles Institution)、ホワ・チョン・インスティテューション(Hwa Chong Institution)などは、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学を始めとしたイギリスの名門大学進学のための準備校(Feeder School)として長年確固とした地位を築いていることも、シンガポールの教育の質が高いと言われる所以でしょう。

 

外国人がローカル校へ通わせる、という選択
子供をローカル校に通わせているという日本人保護者に意見を聞くと、多民族国家であるシンガポールの良い面を直に感じ、子供が多様性を受け入れ、誰とでも話ができる度胸がついたように思える、と学業以外の部分でも好評な意見が出てきます。また同級生には、各自の学業の進捗によって学年が決められているため幅広い年齢層の生徒が在籍しており、子供のペースを尊重し、年齢という枠組みに縛られる必要はないと思えるようになった一方で、学業以外の進路の選択肢が少ない点については残念に感じるようです。
ローカル校への入学システムは頻繁に変更され、年々外国人への対応も厳しくなってきています。

 

詳細については、次回以降で紹介したいと思います。

著者プロフィール    岡部 優子(おかべ ゆうこ)
早稲田大学大学院卒。JPモルガン証券を経て、当地学校法人と日本人家庭の架け橋の役目を果たしたいとCulture Connectionを設立。シンガポール留学をメジャーにするのを目標に、人生の中でも大きな決断となる海外の学校選びの仕事に自覚と責任を持ち、信頼を大事にしながらサポートに励んでいる。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.303(2016年6月6日発行)」に掲載されたものです。

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