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熱帯綺羅

2020年3月15日

体感で記憶を呼び覚ます「シンガポールらしい香り」とは?

 長くシンガポールで暮らすと、寒くないクリスマスにも、桜がない入学式の風景にも、いつの間にか慣れてしまいます。繊細な四季の移ろいを、イベントとともに五感で楽しむ日本と違い、「季節と記憶が結びつくことなく淡々と日常が過ぎ、気づいたら一年経っていた」とシンガポール在住日本人からよく聞く話です。
 
 四季がないシンガポールの日常を、色濃く記憶するのなら、「香り」が役に立つかもしれません。今回は、シンガポールらしい香りを追求してみたいと思います。
 

シンガポールの消費者は「独自性」のある香りが好き

 直近の「Statistaレポート」では、シンガポールのフレグランス市場は2012年が1億1,000万ドルだったのに対し、2020年で約1億3,000万ドルにまで成長しています。成長を続けているシンガポールのフレグランス市場は、2020年から2023年まで市場は毎年1.6%の比率で拡大すると予想されています。
 
 また、2019年のEuromonitorのレポートによると、シンガポールでは大量生産型の有名ブランド香水よりも、プレミアム香水の販売が伸びています。これは、より独自性を追求した高級香水で、誰かと同じ香りではないく、「自分だけの香りを身に付けたい」というミレニアム世代の志向にもマッチする傾向です。そのため、ローカル香水ブランドも、独自性やクラフトマンシップを全面に打ち出したマーケティングを展開しています。例えば、数十種類のオイルを調合して自分だけの香水を作るワークショップを開催するなど、大量消費型有名ブランドとの差別化を図っています。

シンガポール独自の香りはマーケティングにも影響を及ぼす

 ワークショップといえば、昨年シンガポール産の蘭オイルを使用したフレグランスを販売する「Jetaime Group」によるワークショップが開催されました。「蘭のオイル」などシンガポールならではの香りを数時間かけて調合したオリジナル香水を、名前を彫った香水瓶に入れて持ち帰ることができる、特別な体験でした。
 

 
 シンガポール・オリジナルの香りがマーケティングに利用された例は、他にもあります。シンガポール航空は、おしぼり、客室乗務員の香水や機内に「ステファン・フロリディアン・ウォーターズ」という特別に調合したオリエンタルな香りを使用することで有名です。エアラインも、独自性のある香りで「旅の記憶」とリンクした、体感記憶ブランディングを行っている良い例です。
 

多様性あるシンガポールを象徴する「町の香り」

 私たち日本人は、どちらかと言うと身につける匂いを最小限にして、その分、料理の香り、四季の香り、場の香りを敏感に察知して、楽しむ民族ではないでしょうか。その繊細な感覚を活かして、シンガポールの町の香りを探索してみると、発見があるかもしれません。
 
 多民族国家シンガポールには、町(コミュニティ)それぞれを象徴するような匂いがあります。

リトルインディアのエネルギッシュな香り

 リトルインディアに行けば、インドのお香がもくもくと路上で炊かれている横で、ヒンズー教のマリーゴールドの花輪からは水滴を帯びた新鮮な花の甘い香りが漂います。
 

1800年後半から発展したリトルインディア。バッファローロードには数多くのスパイス、花輪、八百屋が並ぶ
お香を手にヒンズー教の花輪を売る店員

 近隣のレストランからスパイシーなカレーの香りと混ざり合う、引き算なしの香りの競演は、エネルギッシュなインドという国そのものを感じることができます。

アラブストリート他地区にはない異国情緒あふれる香り

 アラブストリート周辺は、シーシャが禁止されるまでは、夜はシーシャの香りと湿気が混ざり合った濃厚な空気が漂っていました。現在でも、1933年創業のアラブのお香やパフュームオイルを売る老舗店「JAMAL KAZURA AROMATICS(ジャマルカズラ・アロマティクス)」に入れば、アラブならではの香りである沈香、フランキンセンス、ムスク、サンダルウッド、ローズなどの重みのある香りに包まれます。
 

 
 昔からこの地区にイラン人が半屋外状態で出店しているペルシア製絨毯店から発する、カーペット独特の匂いにも気づくことでしょう。モスクのある風景の中でこれらの香りが雑多に混ざり合い、他地区にはない異国情緒が記憶に刻まれます。
 

アラブ特有の幾何学模様がほどこされたタイルで装飾されたレストラン
モスクまで一直線の通り。左右にレストランや土産ショップが並ぶ

チャイナタウンのどこか懐かしく、ほっとする香り

 中華系の香りといえば、もっと多様で人それぞれ違うかもしれません。寺の線香、ドリアン、中華まんの香り。ゴースト・マンスに路上で炊かれているお線香や、新加坡佛牙寺龍牙院(ブッダ・トゥース・レリック寺院)を訪れれば、懐かしいお線香の香りが漂い、ほっとする人も多いのではないでしょうか。
 
 また、中華系の人々のドリアンへの愛は特筆すべきもの。シンガポールの国民的フルーツですが、その強烈な匂いは遠くにいても察知できるほど。そして、チャイナタウンのPeople’s Park Complexに行けば、中華まんなどのスナックを売る屋台がひしめいています。出来立てホカホカの中華まんが発する甘じょっぱい香りに誘われて、ローカルのように食べ歩き。嗅覚と視覚が刺激されて、つい、日本や他の地区ではしない行動を取ってしまいます。
 

お金や昇進に効くパワースポットとして有名な新加坡佛牙寺龍牙院(ブッダ・トゥース・レリック寺院)
中華系の八百屋に必ずあるドリアン

シンガポールにおいて「香り」は文化

 昔の恋人のつけていた香水など、香りにより過去の記憶がフラッシュバックする経験は、誰にでもありますよね。淡々としたシンガポールの日常の中でも、こうして“香り”に着目すると、生き生きとした体感記憶が増えて行くのではないでしょうか。

(取材・文/舞スーリ)

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