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熱帯綺羅

2017年12月23日

マイ・スウィートホーム、HDBから見るシンガポール

写真集『HDB: Homes of Singapore』より、118戸のお宅拝見

アートユニットのケヤキスモスこと小川栄太郎、岩崎玉江夫妻と、シンガポール国立大学講師で建築家の宮内智久さんの3人が2017年1月に上祥した写真集『HDB: Homes of Singapore』は、まさに現在HDB団地に暮らす住人の日々をありのまま紹介しています。島内118戸、あらゆるロケーション、サイズ、スタイルのHDB住宅を、知人を通じて、時にはその場で交渉しながら3年間撮影を続けました。単一的な建物の外観からはうかがい知れないHDB住宅の多様な内装やデザインに驚かされたことが制作のきっかけだったとか。「一戸一戸のHDB住宅は作り変えられる空間。個性があって面白いだけでなく、それぞれの家のストーリーが映し出されているのです」と岩崎さん。ページをめくるごとに世代、宗教、趣味、ライフスタイルなど個性が存分に発揮された空間が登場します。快く自宅を開放してくれた住民たちは人情味溢れ、食事をもてなされることもあったと小川さん。「時代は変わってもHDB住宅はそれぞれの家族の生活が営まれ、その人の一番ディープなルーツがあるところ。シンガポール人そのものを体現しているといえます」(小川さん)。

 

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『HDB: Homes of Singapore』は、680ページ、重量約5㎏の大作。2017年のベニス建築ビエンナーレでシンガポール代表として発表されたり、ユニークな本の装丁はグッド・デザイン賞も受賞した。

 

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小川栄太郎さん(右)と岩崎玉江さん(中央)、宮内智久さん(左)(写真提供: 宮内智久さん)

 

前述の小川・岩崎夫妻自身も、持ち家のHDB住宅で暮らす4人家族。文化や習慣の違いから当初は不安があったものの、華人の風習を習ったりインド系家族のパーティーに呼ばれたりと、徐々に行き来が始まり、馴染んでいったそう。お互い違うものと認識して許容範囲を広げることで居心地がよくなったと教えてくれました。HDB団地が島内に導入される以前、郊外では簡素な家々が集まったカンポンと呼ばれる集落で華人もマレー人も隣り合わせで暮らし、それぞれ助け合い、戸に鍵をかけることもなく行き来していました。シンガポールではほぼ消滅したカンポンですが、カンポンの精神を今の環境で感じていると語る2人。現代生活の中に息づくカンポン精神、シンガポール気質としてHDB団地に受け継がれ次世代へつないでほしいと願うばかりです。

 

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外観からでは想像できない個性的な内装。住人のライフスタイルが伝わってくる。(写真提供: 宮内智久さん)

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.329(2018年1月1日発行)」に掲載されたものです。写真・取材:桑島 千春

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