2015年10月19日
南洋史を映す 日本製のプラナカンタイル
プラナカンタイルの語り部との出会い
「シンガポールで旧い建造物がどんどん取り壊されていった1980年代、がれきの中から美しいタイルを友人と拾い集める競争をした」と語るビクター・リムさん。ビクターさんは、当時のコレクションをもとに2万点ものタイルを持つギャラリー「ASTER BY KYRA」のオーナーで、今年9月にプラナカンタイルの概要を紹介する『Peranakan Tiles Singapore』を出版しました。同じ頃、フランスでのマジョリカタイルの国際会議にも招かれ、マジョリカタイルの流れを汲むプラナカンタイルは、ほぼ全て日本製であるという事実を共有したといいます。会議にはイギリス、ベルギー、フランス、ドイツ、日本など、マジョリカタイルに縁のある国々の専門家が集まり、現在ユネスコの無形文化財として登録申請するための準備を進めています。
「シンガポールには、イギリスや日本のほか、ベルギー、フランス、ドイツ製などのタイルを装飾に取り入れたショップハウスや建築物が多くあります。複数の国々からのタイルが同時期に使用された都市は他に見当らない。国際的な商業の中継地だった証ともいえます」。
今では1枚100Sドル以上の高値で取引されるアンティークのタイルがある一方で、多くの人に普段の生活に取り入れてほしいと、ビクターさんはインドネシアにタイル工場を持ち、実用的な複製タイルを生産しています。実際、そのタイルが保存地区のショップハウスや寺院の修復に役立てられ、レトロな雰囲気を出したいカフェやホテルなどにも重宝されているとか。自分はただのビジネスマンと笑いながら、次世代にこの文化遺産をどう継承するかが課題とビクターさんは熱く語りました。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.290(2015年10月19日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:桑島千春