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Employer's Voice

2010年2月1日

雇用とモラリティー(2)

パシフィック不動産(シンガポール)株式会社 マネージングダイレクター 木村登志郎 業種:不動産仲介業

前回は、雇用者側のモラリティーについて意見を述べた。今回は雇われる側について述べてみたい。

転職とモラリティー

「巨大金融機関を大きなリスクに直面させ、それを実質破綻させ、そして、政府が血税で救済したにも拘わらず巨額のボーナスをもらっている金融機関経営者は不道徳だという声が欧米で高まっている。まさに資本主義とモラリティーの問題だ。」などと言うと、モラリティーは資本家・経営者・雇用者側だけの問題ように聞こえるが、実はそうではない。

 

転職について言えば、前職で知りえた知識・顧客情報などを「売り」に「私を買いませんか」と転職先を探す候補者にも、特にシンガポールでは、よく出くわす。

 

私の問題提起は、「本当にそれで良いのですか」ということである。

 

最近の雇用契約には、厳格な同業転職禁止規定を盛り込むケースも増えてきている、と聞く。しかし、それは職業の選択を奪うし、雇う側の身勝手ではないだろうか?

 

また、法律にも抵触するような規定では、実効性もない。雇われる側にとっても、その会社で働いても、労働意欲も上がらないであろう。同様に、前職で知りえた知識や顧客をネタに自分を売り込む求職者側にも、大きな道徳的欠陥があると思う。シンガポールは、特に外国企業にとって安心できる拠点として売り込んでいることもあり、知的財産の保護にも大きな配慮をしている。1~2年前の話だが、米系大手銀行から欧米系コンペティターに転職したシンガポール人スタッフが顧客リストを、こともあろうにemailで転送した結果、御用となり、刑事訴追されると同時に、米系銀行からも高額の損害賠償訴訟を提起され、更には欧米金融機関からも雇用契約を解消されたと聞く。その点では、雇われる側に求められているのも、モラリティーである。

 

ちなみに、欧米系企業では、雇用契約に全面的な同業転職禁止規定を盛り込むのではなく、6ヵ月~1年間の一定期間の同業転職禁止、或いは、前職で知りえた知識(知的財産、含む顧客情報等)を転職先で利用してはいけないという条項(No Competition Clause)を盛り込むのが、一般的になりつつあるようである。また、そのような条項の有無に拘わらず、雇われる側にはFiduciary Duty(信義誠実義務)がある。いずれにしても、規約以前に、心の問題であり、転職と自分のキャリアアップを考えている方は、モラリティーという点でも自分を磨いてもらいたいと思う。

年次有給休暇(Annual Leave)

シンガポールは日本と比べて祝日数は少ないが、病気休暇(有給)や年次有給休暇は遠慮することなく、取得・利用できる。それは良いことだと思う。また、有給休暇は使うためにあるので、先進的な企業ほど、翌年への繰越加算を認めない傾向があるようだ。要は、ちゃんと活用・消化しなさい、ということだ。

 

但し、有給をまとめて取得する時には、皆で調整して、顧客や同僚に迷惑がかからないようにするのは、当たり前の事である。更には、退職時には、有給休暇残を退職通知期間に相殺する当地慣行についても、特に欧米企業ではExecutive Staffについては認めないところも多いようだ。退職・転職は個人の権利だが、これも、なるべく他に迷惑をかけないようにしなさい、ということだろう。

 

結論:雇用についても、雇う側・雇われる側共に、モラリティーが問われている

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.161(2010年02月01日発行)」に掲載されたものです。

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