2010年10月18日
仕事は楽しいですか?
Asia Oishii Pte.Ltd. Managing Director 北村 篤彦 業種:広告宣伝
今から11年前、シンガポールで働くようになって3年経った時に、部下を持つ立場になりました。その時から、仕事を通じて出会ったたくさんの人の良いところから「優秀な上司」像をイメージし、どうすれば自分自身がそうなれるかを考えてきました。
私の考える優秀な上司の仕事は、組織への貢献や達成感を感じながら楽しく働ける魅力的な職場を作ることです。そのために三つを実践しています。
先ず、忙しさを顔に出さず、相談しやすい雰囲気を作ります。部下が判断できない時や困っている時に忙しそうにしていると、部下が相談するタイミングを逃がし、事態が悪い方向に向かってしまうことがあるので、できるだけ早く解決するためです。事態が悪くなると、部下は相談や報告がしにくくなり、さらに悪い事態になってしまいます。
次に、指示を出すときは、その仕事の重要性を理解してもらうための説明をします。仕事の重要性を理解すると、誠意を持って仕事に取り組み、良い仕事をしようとするので、工夫が生まれます。期待されているよりも良い成果が出て褒められると達成感を感じ、また良い仕事をしようと、さらに工夫するようになります。
三つめは、私自身が楽しく仕事をする、ということです。私自身が楽しく仕事をしていれば部下にもそれが伝染し、良い影響を与えて笑い声が聞こえる職場になります。
そして、部下にとって自分が「優秀な上司」になっているかどうかを知るために、「仕事は楽しいですか?」と、機会ある度に尋ねます。
一方、私にとっての優秀な部下とは、「専門用語を並べたりせず、情報を明確にして、選択肢をきちんと示してくれる」部下です。管理職の仕事というのは、自分で仕事をすることではなく、判断することですから、分かりやすく説明してくれ、さらに選択肢を示してくれると早く判断ができ、こんなに効率の良いことはありません。
また、こういう部下は、上司より高いレベルでできることを何か一つは持っていて、時々上司の仕事をチェックしてくれることがあり、とても助かります。
かつて二社による事業統合で、新会社を設立しアジアでのブランディングを担当した時には、私が部下にひとつひとつ指示を出して教えるのではなく、部下から何が重要か提案してくれて、そのアイデアの中からブランディング戦略を立てることができました。いくつかのアイデアは、日本や他の地域にも採用され、「仕事が楽しい」と言ってくれる優秀な部下に支えられて、シンガポールでのブランディングは成功を収めることができました。
その後転勤で赴任した中国では、シンガポールで実践したことが中国でも受け入れられるのか、試す機会となりました。
設立されたばかりの会社に新しい部署を作って、新しいスタッフを採用する。初めての土地で様子が分からず、また設立間もない会社ゆえに、募集の広告を出しても応募者が少ない状況でしたが、幸運にも日本語のできるスタッフを採用することができました。大学卒業後の就業経験が短く、またブランディングの経験もなかったのですが、任せた仕事をひとつひとつ確実にこなしながら、すごいスピードで知識を吸収して、一年も経たないうちに「情報を明確にして、選択肢をきちんと示してくれる」ようになりました。反日運動でやり玉に挙げられそうになり混乱していた時には、機転をきかせたメディアへの対応をしてくれました。そして、この大きな問題を解決したとき、「仕事が楽しい」と言ってくれました。
それぞれの経験は、部下の成長だけでなく私自身の成長も実感でき、大学時代に体育会で経験した達成感に似て、大変充実したものでした。「優秀な部下」のおかげで、思い描く「優秀な上司」に近づけたとも思いました。
私自身は転職でシンガポールに戻り、その後いくつかの職場を渡りましたが、魅力ある職場を作るために今も同じように実践しています。
そして、私の元を離れた元部下も今はそれぞれの職場で上司の立場になり、部下に尋ねるようになりました。「仕事は楽しいですか?」
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.177(2010年10月18日発行)」に掲載されたものです。