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Employer's Voice

2011年5月16日

この人に会いたい、と思えること

ヘンリーブロス シンガポール ダイレクター 伊場 宣之 業種:飲食業、食材卸

昨年来より中小企業として、レストランの開業に携わってまいりました若輩者の、個人的な雑感を述べさせて頂こうと思います。

 

初めは色メガネの製作から始まりました。

 

人事を専門にしたことが無い私が、最初にしてしまったのは、シンガポールにおける、日本と異なる部分=多種多様な民族を、聞きかじりの情報を元に分類していったことです。例えば、シンガポール人は飲食などやりたがらないとか、ジョブホッピング云々といった感じです。もちろんこれらは情報としては有用で、実際の傾向としてこういったレッテル通りのこともあるわけですが、人そのものを見る際には、非常に邪魔になってきました。

 

また、シンガポールの雇用制度においても、無名の新興企業としては、非常に厳しい点が多々あり、また契約直前でのドタキャンといったこちらの風習(?)にも翻弄され、思うように人が集められず、気付けば店舗のことはそっちのけで一日のほとんどを人材探しに消費した時

 

もありました。出会う人みんなに「シンガポール人の働き手はいないか」と尋ねてまわっていたほどです。

 

しかしながら、こうして様々な人々と出会う中で、多様な考え方に触れ、さらには日本人より日本人らしい、と言うと語弊があるかもしれませんが、そんな方々にも出会うことができ、次第に色メガネの曇りが晴れていきました。

 

そうしてようやく、とどのつまりは人それぞれでしかない、という至極あたり前のことに改めて立ち帰ることができた気がします。

 

結局、予定していた人員を集められないまま、「銀座黒尊」という店をロバートソンキーにて開業するに至りました。人が足りずにスロースタートになってしまった点は、会社としては問題ではありますが、結果的には少数精鋭で店の基盤を固められたことは、今となっては良かったと思えています。飲食店とは毎日が「一期一会」の世界ですので、それを体現できる人材でなければ、何人いても良いサービスはできません。

 

採用にあたって私が最重視するポイントは、飲食業界でよく言われる言葉なのですが、ホスピタリティがあるということに尽きます。一般的には「思いやり」とか「おもてなし」といった言葉で訳されますが、漠然としていて捉えづらいように思います。ホスピタリティとは一体何なのだろうかとよく考えます。私見ではありますが、突き詰めて言えば「相手の立場に立ってものを考えられること」ではないかと思います。相手が求めていること、さらに言えば相手が気付いていない内なる要望をいかに汲み取れるか、ということです。

 

それをしてくれる人には、私は「もう一度会いたい」と自然に思います。お客様もきっとそうであろうと信じています。また、これは飲食業に限らず、様々な企業の人材としても同様なのではないだろうかと、考えています。ただ、ホスピタリティというのは面接などでは、表面には出づらく、わかりにくいように思います。対して笑顔というのはとても分かりやすく、さらに私どもの業界においてはとても大事な要素ですが、笑顔とはスキルの一種のような部分もあり、教育や環境を整えてあげることで、身につけることが可能であると思っております。対して、ホスピタリティはもっと深いところの個々人のマインドに左右されるように思え、それぞれの考え方を確立している大人にそれを身につけさせる、というのは非常に容易からぬことのように思っています。ですので私はいつも、履歴書や面接での態度、言葉の端々に、にじみ出て来るかもしれない、ホスピタリティを決して見逃さぬように注意を払っております。幸いにもローカル、外国人の方を問わず、素晴らしいホスピタリティを持った方々に出会うことができています。さらにそういった人材を探し出し、その才能を伸ばしてあげること、それが現在の私の使命であると、感じております。

 

末筆ながら、拙文をご覧いただきありがとうございました。皆様方にとって、何がしかの参考、またはきっかけ、あるいは暇つぶしなどにして頂けたらこの上ございません。また、諸先輩方の記述も拝読させて頂き、大変勉強させて頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

ところで、皆様方にも「この人にもう一度会いたい」と思える店員さんがいらっしゃいますか?

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.189(2011年05月16日発行)」に掲載されたものです。

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