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Employer's Voice

2011年7月4日

シンガポールの労働事情

Menicon Singapore Pte Ltd マネージングダイレクター 川浦康嗣 業種:医療機器製造

シンガポールに赴任して早いものでもう4年近くが経とうとしています。この間、私は当地で主にコンタクトレンズの技術開発拠点および生産工場立上げなどに従事してまいりました。今年になって、立上げ業務もようやく一段落しつつあり、それにつれて個人的な興味の方向もジュロン地区から徐々にオーチャード方面へと向かいつつある昨今です。それはさておき、シンガポールでの仕事の中で、とりわけ組織の立上げでは人材採用を含む人事管理は大変重要であり、またチャレンジングな課題の一つでした。それというのも、私共の業種はシンガポールでは比較的新しく、未経験者を採用し期間をかけて育成せざるを得ないだろうと思われたからです。結果は、予想に反し短期間で質の良いチームを編成出来たと考えていますが、これは当地の労働事情によるところが大きかったと感じています。本稿では、日本との違いに着目しつつ、その中で感じた雑感などを述べてみたいと思います。

(1)透明な労働市場

日本とは異なり、シンガポールには明確な労働マーケットが存在します。雇用者サイドからは従業員が転職しやすいなどのダウンサイドもありますが、適切な雇用条件さえ設定すれば短期間で専門的な人材をも採用出来るということは大きなメリットでもあります。私共の場合、高度な専門的知識を有する中核メンバーを極めて短期間で採用する必要がありましたが、このような効率的なマーケットの存在なくしては到底成し得なかったことだろうと思います。

また、多数の賃金統計や採用情報が公表されており、雇用者・求職者の双方が豊富な情報にアクセス出来ることから会社の賃金水準の設定もマーケットレンジをかなり意識したものとなります。

(2)シンガポール人の勤労観

確かにシンガポールではジョブ・ホッピングのような現象を日常的に目にします。応募者の履歴書を見ると、2~3年で転職を繰り返している人が多くいるようです。だからと言って、彼らが給料だけで職場を選んでいるのでしょうか。実際に様々な人と一緒に働いてみて、彼らが仕事や職場に求めるものはそれ程日本人と変わらないという印象を持ったのは私だけではないと思います。

それでも転職が多いのは充実した労働市場があり、選択肢が多いからだろうと思います。一見すると、求職者には恵まれた環境にも見えますが、一方でシンガポール人は自分自身のマーケットバリューにも敏感です。多くの人が働きながら、パートタイムの学校へ通ったり、遠隔学習などで学位取得に励んでいるようです。私の職場にも50歳を超えながら学位取得のため毎ターム試験勉強を頑張っている人がいますが、中々出来ることではありません。やはり売り手と買い手のニーズが合致して成り立つ労働市場ですから、その中で自身のポジショニングを確立すべく自分でキャリア開発を行う姿勢が際立っています。そう考えると、彼らの勤労観というか自分のキャリアに対する考え方は私などよりも余程真面目なのではないかと思ってしまいます。

(3)教育システム

私にとって、シンガポールの教育制度は当初わかりにくいものでした。日本のシンプルな制度と異なり、生徒は成績により、大学、ポリテクや技能訓練校といった進路へと振り分けられます。その結果、大学進学率は日本よりもかなり低く(20%程度)、大変競争的なもののようです。政府が教育に深く関与しており、プログラムの内容は実践的で産業政策を反映したものが多いように感じます。先日、当地の閣僚の方とお話をする機会があったのですが、メディカルテクノロジー産業に従事できる人材を育成するために、ポリテクと共同で教育プログラム開発をしないかと熱心な提案を受けました。たまたま話の流れで、この分野の専門職採用が話題となったとき政府高官から直ちにそのような具体的な提案がなされるところは、まさに政府が教育と産業育成を直結して考えている証左ともいえます。

政府はメディカル産業育成に大変力を入れていますが、日頃接する取引先の地元企業の中にも近年中核ビジネスを医療分野に大きく転換させた会社が幾つもあります。このような事業転換は、政府の政策もさることながら、シンガポールの労働事情、特に市場価値の高いスキルを貪欲に学ぼうとする個人レベルの行動が根幹にあったのではないかと思います。この先もダイナミックに変化し続けるシンガポールに遅れないよう自分も進化したいものです。

 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.192(2011年07月04日発行)」に掲載されたものです。

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