シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX求人TOP調査業務拠点としてのシンガポール

Employer's Voice

2012年8月20日

調査業務拠点としてのシンガポール

アジア大洋州三井物産株式会社 業務部戦略企画室 マネージャー 新谷 大輔 業種:総合商社

シンガポールでの業務を開始して2年5ヵ月。当方のシンガポールにおける業務は「調査」である。そのカバーする領域は広い。三井物産においては、シンガポールが極東アジアを除くアジア大洋州地域の統括拠点となっており、当方のカバー地域も東南アジア、南西アジア、大洋州と広域である。また、調査内容は各国の政治・経済・産業等の動向調査を中心に、ASEAN統合が事業に及ぼす影響、低所得者層の生活実態(BOPビジネス関連)、ハラル関連事業などカバーする分野も様々である。元々は三井物産のシンクタンク部門である三井物産戦略研究所の研究員として、2010年3月まで東京で勤務していたが、研究所のアジアにおける拠点を開設すべく当地に赴任、商社における調査拠点の在り方を模索し続けている。シンガポールにおいて、当方同様の調査活動を行っている方は多くないと思われるが、日系各金融機関にはエコノミストが配置されており、各国の経済動向等の予測を行っている。また、広義でいえば大使館やJETROなどの政府関係機関や新聞社等のメディアもまた調査に関係する職種といえるだろう。

調査と一口に言っても、その業務は幅広い。通常、エコノミストの業務の場合、データは各国の統計局が発表するデータをベースに分析を行う。しかしながら、それだけでは情報が不十分のため、各国に出張し、政府機関や金融機関、シンクタンクなどを訪問、最近の経済情勢や今後の見通しについて、意見交換し情報を得る。また、ISEAS(東南アジア研究所)、SIIA(シンガポール国際問題研究所)といったシンクタンクやシンガポール国立大学リー・クアンユー行政大学院などにおいて、頻繁に様々なテーマによるセミナーが開催されており、それらから情報を得たり、人的なネットワーク構築のきっかけとしたりすることもある。また、産業や市場調査となれば、より具体的な産業に特化し、業界団体や企業を訪問、その動向を把握する。新興国の多いアジアにおいては、日系企業のみならず、成長著しい地場企業の動向も見逃せない。

シンガポールを拠点に調査業務を行うことの利点を考えると、その立地性がまず挙げられる。シンガポールはアジアのハブ拠点として、どこの地域に行くにしても効率的であるが、これは定期的に各国に出張し情報収集を行う調査担当にとっても、大きなメリットである。また、シンガポールは国際水週間(SIWW)など、世界有数の国際会議が開催されることでも知られる国である。世界中から参加者の集まるこうした会議に出席することで得られる情報とネットワークは極めて有益である。そして、世界中の企業がシンガポールをハブ拠点としていることも大きな利点であることは言うまでもない。

さらに、シンガポール政府機関の情報収集能力も魅力的である。たとえば、IE Singapore(国際企業庁)は世界中に事務所を構え、シンガポールに拠点を置く企業の対外投資を支援しているが、彼らとのネットワークから得られる情報も貴重である。特に、よりビジネスに直結した案件に関する調査であれば、双方に有益な意見交換を行うことで、彼らから情報を得ることができる。

調査という職種はなかなかイメージが湧きにくい面があると思われることから業務の内容についてここまで述べてきたが、やはり特殊な職種であることは否めない。それだけに、調査の実務能力に長けた人材を採用することは容易ではない。業務においては、単に調査を行うだけではなく、それを結果としてレポートにまとめること、独自の分析視点を加え、ビジネス促進に資するような情報とすることが必要なためである。さらに、多忙を極める幹部へ情報を伝えるための要約力やプレゼンテーション能力も欠かせない。また、海外拠点の調査職というのは、各国の情報ソースとのネットワーク形成能力も必要なため、積極的に足で情報を稼ぐフットワーク、コメントを引き出すためのコミュニケーション能力も求められる。良い情報はやはり人的な関係が構築されてこそ得られるものである。そして、専門的な知識が要求されることは言うまでもない。これから調査業務を志す方がおられるようであれば参考にして頂きたい。

現在、シンガポールにおいて調査に関わる業務に携わっておられる方を集めた勉強会を隔月(次回9月)で開催している。メンバーから最新情報の報告を頂き、それをベースに意見交換を図る場となっている。調査に関わる業務に携わっておられる方の参加が今後さらに増えることを願っている。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.218(2012年08月20日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX求人TOP調査業務拠点としてのシンガポール