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2013年6月3日

明日の指導者は「今日、つくられる」

Metropolitan YMCA Singapore Associate Program manager 桜井 徹 業種:社会教育団体

私達人間は、常にひとりでは生きていけません。社会的な関わりの中で生きているということも事実ですが、もっと深いところで“集団”への帰属意識の欲求を持っています。人の成長過程で、はじめは母親との関係だけであったものが、やがて家族、近所の友達、学校の仲間、興味や目標を同じにする仲間へと人間関係が広がり、個人が所属する集団が広がっていきます。その集団にいることが心地よく、誇らしく感じる時もあるでしょう。仲間や集団の構成員から認められることなしに、人は成長できません。

スイスの教育家であるペスタロッチは著書の中で「人間は、人と人との、心と心の接触によってのみ、その人間性の真価を発揮させる。そんなことは小さなサークルの中でしか起こりえないが、それはやがて、感情の暖かさと愛と信頼と希望の中で次第に大きく成長する」と述べています。集団の中で起こりうる人と人との関わりの中で、影響力を持つ人間が現れてきたり、特に、強い力を持った個人がいなくても、その中の数人が相談をしたり、役割を分担しながら集団の方向性を決めて行くといった場合もあります。いずれの場合も、グループの方向性を決める「指導者機能」が存在しているのです。これを私達はリーダーシップと呼んでいます。リーダーシップは言い換えれば「集団(他人)に及ぼす影響力」ですから、望ましいプラスのリーダーシップもあれば、望ましくないマイナスのリーダーシップもあるわけです。そして、しばしばマイナスのリーダーシップは一時的であるにせよ、強烈で他への影響力が大きいことがよくあります。

私が行っている仕事の一つに、子ども達のキャンプ活動があります。5〜8人のグループを形成し、ボランティアリーダー(主に高校生や大学生)を各グループに1〜2名配置します。YMCAでは指導者のことを「先生」や「コーチ」とは呼びません。教えるだけの側面ではなく、共に学び、分かち合い、成長する仲間であってほしいとの願いから「リーダー」と呼んでいます。リーダー達はキャンプ活動の様々な場面で、ある時は子ども達の前面に立って、またある時はそっと見守りグループに働きかけ、目標に向けて影響力を与えます。言い換えれば、グループのリーダーシップを常に独占しているのが良き指導者であるということではなく、グループの中に働いているリーダーシップを注意深く見守り、望ましい方向へ、必要に応じて援助する存在としてある姿こそ私達が目指しているリーダー像です。絶対的な存在ではなく、常に子どもと向き合い、子ども達と共に成長する心を持つ若い「リーダー」を私達は育てています。

未来ある子ども達と共に良き成長の機会として、これからもこの豊かな自然の地で様々なリーダーシップを学ぶプログラムを展開したいと思っています。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.235(2013年06月03日発行)」に掲載されたものです。

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