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社説「島伝い」

2008年4月7日

オリンピックは誰のため?

先月チベット自治区ラサで発生した大規模暴動における中国政府の対応について、各国、特に欧米諸国からの批判が高まっています。政府による武力での暴動鎮圧を当初は否定していたことを始め、海外メディアや外交官の立ち入りを暴動発生から2週間以上も認めなかったことなども、その批判が強まった一因となっています。

 
シンガポール政府は、その後中国政府が出した国民の生命・財産を守るための最小限の武力行使であったとする声明への支持を表明しました。日本政府は昨年来融和ムードにあった中で、冷凍ギョーザ中毒事件や東シナ海ガス田問題といった懸案を抱え、微妙な情勢にある日中関係に配慮しつつ、7月の洞爺湖サミットを控えて議長国として欧米諸国の人権問題を重視する姿勢も無視できず、いわば板挟み状態。福田首相も、この問題を五輪への参加可否に直結せず冷静に判断すべき、と慎重な発言に留めています。

 
中国政府が「内政問題」と国際世論からの批判を退けようとする一方で、一部の国の首脳が北京五輪開幕式への不参加を表明し始め、抗議行動による妨害やランナーのボイコットなどで聖火リレーも今後の進行が懸念されている状況を見ていると、この情勢が北京五輪に暗い影を落とし始めていることにはやはり疑問が残ります。今回の問題が選手たちに不安を与えることにはなってほしくないものです。

 
1980年モスクワ五輪では当時の西側諸国の選手達が、1984年ロス五輪では東側諸国の選手達が、ボイコットにより五輪を目前にして涙を呑んでいます。五輪を目指して何年もトレーニングを積み、厳しい競争に勝ち残って調整してきた選手達のショックは計り知れません。五輪が商業化され巨大な金が動いている以上、政治とも決して無縁でいられないのは事実ですが、多くのスポーツ選手にとって、4年に一度しか開催されない五輪は現在でも一番の目標とする大会。夢の舞台に立つために並々ならぬ努力を重ね、様々なものを犠牲にしながら頑張ってきた選手達が安心して競技へ集中できるよう、開催国である中国だけでなく各国が五輪成功のために協力し、世界中で盛り上げるイベントとなることを望みます。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.119(2008年04月07日発行)」に掲載されたものです。

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