シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP展開と流出の違い

社説「島伝い」

2008年7月21日

展開と流出の違い

先日、シンガポールの昨年の1人あたり国内総生産(GDP)が35,000米ドルを超え、約34,300米ドルの日本を抜いてアジアでトップになった、というニュースが流れました。2006年のシンガポールの1人あたりGDPは約31,000米ドル、約13%のアップです。この背景にはさまざまな要因があり、単純に数字が示す通りにシンガポール国民みんながリッチになった、という訳ではもちろんありませんが、日本の数値を超えたことに衝撃を受けた方は少なくないでしょう。

 
日本経済の弱体化が言われて久しいとはいえ、日本は当然「先進国」で、格上だという意識は、何らかの形で日本人のどこかにあったのではないかと思います。中国、インドなど急速に経済成長を遂げた大国の存在や、韓国や東南アジア各国の成長ぶりはすごいと認めていても、本当に追い抜かれるとは思っていなかったのではないでしょうか。しかし、こうして統計数字が出て、追い抜かれた日本の姿が現実のものとなりました。

 
シンガポールは海外に対して広く門戸を開いており、外国人の受入れにもオープンで、外資の誘致にも熱心です。国としての投資誘致政策を引っ張っているのはシンガポール経済開発庁(Economic Development Board)。また、シンガポール企業の海外展開をサポートする体制も整っていて、シンガポール国際企業庁(International Enterprise Singapore)がシンガポール企業の国際化や海外投資を支援しています。シンガポールでは外からのものを受入れる流れと、中のものを外へ展開する流れとがうまくかみ合っているといえるでしょう。

 
翻って、わが国日本。さまざまな産業で生産工場が海外に移管され、モノづくりのノウハウが人件費の安い国々へ「流出」するという産業の空洞化が進む一方で、外国人の受け入れなど外のものを中へ取り込む流れは、従来に比べればずいぶん増えているとはいえ、まだまだというのが正直なところです。中のものを外へ流出させるだけでなく、外のものが中に流入する、あるいは、一度外へ流したものが中へ還流する良い循環を作ることが、今の日本に必要なことではないでしょうか。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.126(2008年07月21日発行)」に掲載されたものです。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaX社説「島伝い」TOP展開と流出の違い