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社説「島伝い」

2011年9月19日

政治の天才

今号2ページの記事「政治への意識の高まりはない=リー氏」には、今年5月に顧問相の職を辞してもなお、シンガポールという国の未来を考え、高い意識を変わらず持ち続けているリー・クアンユー氏の姿勢が表れています。今月16日に88歳の誕生日を迎えた氏ですが、この国のベクトルをどこに向けるべきか、そのために何をするのが最善なのかを常に考えながら行動し、明確なビジョンを持ち続けているからこそ、学生達の質問に対しても毅然とした受け答えができるのでしょう。

 
今年5月の総選挙では与党・人民行動党(PAP)が87議席中81議席と一見圧勝に見えたものの、得票率では約6割に留まり、特に若年層や低所得層からの支持が弱いことが選挙戦を通して見えてきました。その流れを的確に察知すると、「これからは若い世代に任せるべき」と当時上級相だったゴー・チョクトン氏とともに総選挙の1週間後には辞任を表明。両氏の辞任は、PAPの特に若手メンバーを「これからは両氏に頼らず自分達がやらなければ」と発奮させたようです。

 
政治の第一線からは引いたリー氏ですが、最近は教育機関でのイベントに積極的に登場しており、その中で折に触れてこの国が成長を続けるために必要なことは何かを語っています。

 
国のリーダーとして、1965年の独立からわずか半世紀足らずでシンガポールを大きく発展させたリー氏の政治的才能は、まさに天才。しかし、天才は生まれながらに天才ではないものです。高い集中力を持って密度の濃い努力を積み重ねた結果が何倍もの成果となって現れ、やがて天才と呼ばれるに至るのでしょう。天才とは「自分のモチベーションをコントロールする能力にずば抜けた人」と言い換えても良いかもしれません。

 
リー氏は、この国が持って生まれた能力を最大限に高めて成長させるために、国としてやるべきことを明確に示しかつ実践し続けることができる「政治の天才」になり、立場が変わった現在も、今やるべきことを同じ姿勢で実践し続けています。政治家だけでなく、企業の経営者にとっても、氏の姿勢や行動には学ぶべきことが本当にたくさんあります。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.197(2011年09月19日発行)」に掲載されたものです。

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