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表紙の人

Vol.349

2019年8月26日

中野 円佳 さん

ジャーナリスト 東京大学大学院博士課程

  東京都出身。東京大学卒業後、日本経済新聞へ入社。結婚、妊娠・出産を経て、これまで女性であることに得も損もないと思って生きてきた人生に初めて疑問を持った。時は第2次安倍政権、「女性活躍推進」という言葉が世間を闊歩し始めた頃。だが女性の前にはいつの時代も大きな壁がある――子供をあきらめるか、キャリアを降りるか。同じ思いに苛まれた育休中、働く女性のジレンマや働きにくさを研究すべく、立命館の大学院へ。そこで書いた論文が『育休時代のジレンマ』という本になり、注目を集める。政府の議論も盛り上がる中、自らの名前での発信を考え、2015年に8年間勤めた日経を退いた。

 

 2人目を出産後、新聞記者の夫の赴任に連れ添い、2017年4月に来星。来星前は留学時に経験したマイノリティ感のトラウマや、当地の歴史的な背景を想い警戒したが、実際は「つたない英語でも一生懸命聞いて、わかろうとしてくれる」人ばかり。公共の乗り物では、おじいちゃんが子供に席を譲ろうとする場面に何度も遭遇し、東京と比べた。「子供に優しい国。皆急いでてイライラしているせわしない東京よりもゆったりしている」と海の向こうを憂う。自身は雇ったヘルパーが新たな悩みの種になったり、新しい土地での生活に慣れるまで苦労したが、来星は子供たちにベストな選択だったと言い切る。

 

 家事や育児の合間を縫って論文を執筆する毎日。「思考が分断されない時間が欲しい」という思いが募る。「出張したい。2~3日没頭できる時間が欲しい」。そんな中、家の近くのHDB内の公園で仲良くなった地元ママたちとの会合が唯一ほっとする時間。先日、いつも温かく迎えてくれる彼女たちに「ホーム」を感じ、胸が熱くなった。「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」に自らの帯同生活を重ねる。後悔しないように心の欲するままに学び続けたい。そして、ジャーナリスティックに書かれた社会学の分析書であり読み物としても優れた『The Time Bind(A.R.ホックシールド著)』みたいな本を書きたい、という。凛とした眼差しの奥に、確かな自信を感じた。
 

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